飲食店を経営していると、どんなに丁寧な接客や調理を心がけていても、クレームは避けて通れない現実です。
「料理が冷めていた」「スタッフの態度が気になる」──お客様からの言葉は、ときに心を刺すように響きます。
しかし、そのクレームこそが、信頼を深める最大のチャンスでもあります。
対応の仕方ひとつで、「もう二度と来ない」と思われるか、「次も来たい」に変わるのです。
本記事では、飲食店の現場で本当に使えるクレーム対応術を、例文付きでわかりやすく紹介します。
さらに、やってはいけないNG対応や、カスタマーハラスメントへの正しい向き合い方、再発防止の仕組みまで、現場のリアルに即した保存版マニュアルとして解説します。
飲食店におけるクレーム対応の重要性
クレーム対応は、単なる“トラブル処理”ではありません。
むしろ、お客様との信頼を深める絶好のチャンスです。
飲食業は「人」がサービスの中心にある業種です。
そのため、どんなに完璧を目指しても、人為的ミスや認識のズレが起こることは避けられません。
重要なのは「ミスをなくすこと」ではなく、「ミスが起きた後にどう対応するか」です。
ある調査によると、不満を感じた顧客の約7割が、店舗側の対応が誠実であれば再来店を検討するとされています。
逆に、対応を誤るとSNSや口コミでの拡散リスクが一気に高まります。
いまや一件のクレームが、店舗の売上やブランドイメージを左右しかねない時代です。
だからこそ、クレーム対応は「接客力の最終テスト」と言われます。
表面的な謝罪ではなく、お客様の感情を理解し、信頼を回復する姿勢こそが大切です。
その対応ができる店舗は、結果的に「リピート率」「口コミ評価」「スタッフ定着率」すべてで好循環を生み出します。
飲食店で多いクレームの種類と原因
クレームの発生には、必ず「原因」があります。
それは、料理の品質だけではなく、接客・環境・コミュニケーションなど、多くの要素が絡み合っています。
ここでは、飲食店で特に多いクレームの種類を、具体的な例とともに整理していきましょう。
サービス面のクレーム(接客態度・待ち時間など)
もっとも多いのが、接客態度や対応スピードに関する不満です。
「店員が無愛想だった」「注文を忘れられた」「料理が遅い」など、感情に直結する部分でのクレームが目立ちます。
この種のトラブルの多くは、“忙しさ”や“伝達ミス”が原因です。
しかしお客様はその背景を知らないため、「軽く扱われた」と感じた瞬間に不満が膨らみます。
つまり、サービスの印象=お店の印象。
一言の声かけが、クレームを防ぐ最も効果的な手段になるのです。
料理・品質に関するクレーム(味・温度・異物混入など)
料理関連のクレームは、信頼を大きく揺るがす重大案件です。
「料理が冷めていた」「髪の毛が入っていた」「味が薄い・濃い」といったものが代表的。
特に異物混入は、保健所への通報やSNS拡散にもつながりやすいため、迅速かつ誠実な対応が求められます。
厨房スタッフとの連携を強化し、再発防止策まで提示できる対応力が信頼回復の鍵になります。
料金・会計トラブル(伝票ミス・支払対応など)
「頼んでいない料理が入っていた」「会計金額が違う」など、金銭に関するトラブルも頻出します。
金銭はお客様の感情に直結しやすく、“誠意の見え方”がすべてです。
たとえこちらに非がなくても、「確認します」「失礼いたしました」といった一言のクッション言葉が重要。
事実確認と同時に、再発防止を伝えることで信頼を取り戻せます。
清潔感・衛生面のクレーム(匂い・トイレ・店内環境)
「トイレが汚い」「店内が臭う」「床がベタベタしている」など、店舗環境に関する不満も多いです。
これらは直接的な接客や料理とは関係ないようでいて、再来店率を大きく左右する要素でもあります。
特に近年は、衛生意識が高まっているため、「清潔感の欠如=不信感」と捉えられがちです。
定期チェックリストを整備し、誰でも清掃・確認できる仕組み化を進めましょう。
SNS・口コミ経由のクレーム(デジタル対応)
現代ならではの課題が、SNSや口コミサイトでのクレーム投稿です。
「タグ付き投稿で不満を表現される」「Googleマップに低評価をつけられる」など、店舗外でのクレーム対応力が求められます。
デジタル上での対応は、感情的な反応を避け、“公開謝罪ではなく誠実な説明”を意識しましょう。
必要に応じてDMやメールなど、非公開チャネルへ誘導するのが基本です。
🔍ポイントまとめ
- クレームは「人・モノ・環境・デジタル」の4カテゴリに分類できる
- どんなクレームも、初動対応の姿勢が信頼を左右する
- 小さな不満のうちに気づける仕組みが、クレームを未然に防ぐ
飲食店の正しいクレーム対応ステップ【初動が9割】
クレーム対応で最も重要なのは「スピード」と「姿勢」です。
どんな内容のクレームであっても、初動の15分で印象の8割が決まるといわれています。
ここでは、現場ですぐ実践できるクレーム対応の5つのステップを紹介します。
① まずは傾聴と共感(感情の受け止め)
クレームの初動対応は、事実確認よりも“感情のケア”が先です。
お客様が本当に求めているのは「説明」ではなく、「理解してもらえた」という安心感。
「ご不快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ございません」
「貴重なご意見をありがとうございます」
まずはこのように共感とお詫びをセットで伝えることが大切です。
ここで反論や言い訳を挟むと、相手の怒りが増幅してしまいます。
② 迅速な謝罪と初動報告
感情の受け止めができたら、すぐに上司・店長への報告を行いましょう。
一人で抱え込むと対応が遅れたり、判断を誤ったりするリスクがあります。
特に、料理トラブルや衛生面の指摘は、即時に責任者が対応する体制を整えておくことが重要です。
初動のスピードは、誠意そのもの。
「すぐ対応してくれた」という印象が、後のフォローを圧倒的にラクにします。
③ 状況確認と事実整理
お客様が落ち着いた段階で、事実確認を丁寧に行います。
どの料理だったのか、どのスタッフが関わったのか、時間帯や提供状況などを具体的にヒアリング。
このときも、あくまで冷静に、感情的な否定は避けましょう。
「確認のために少しお話を伺ってもよろしいでしょうか?」
この一言で、お客様の協力を得やすくなります。
確認結果は、必ず記録(対応履歴)に残し、再発防止に活かします。
④ 解決策の提示と再確認
事実が整理できたら、解決策をその場で提示します。
再調理・返金・代替提供など、できるだけ具体的に説明しましょう。
ただし重要なのは「どう対応するか」だけでなく、お客様が納得しているか。
「こちらの対応でよろしいでしょうか?」
という一言を添えることで、最終的な合意を得られます。
また、提供後は必ず様子を見に行き、
「先ほどは失礼いたしました。お味など大丈夫でしょうか?」
と声をかけると、誠実さが伝わります。
⑤ フォローアップ(後日の信頼回復)
対応が終わっても、それで完了ではありません。
フォローの一言やお礼の連絡が、信頼を“感動”へと変えます。
電話・メール・DMなどで
「先日は貴重なご指摘をいただき、誠にありがとうございました。
ご来店の際にはより良い体験を提供できるよう努めてまいります。」
といったフォロー文を送るのも効果的です。
丁寧なフォローが「この店は誠実だ」という印象を残し、口コミ改善や再来店率向上につながるのです。
🔍ポイントまとめ
- 初動の対応速度が“印象の8割”を左右する
- 共感→報告→事実確認→提案→フォローの5段階を意識
- 記録と共有を徹底し、次のクレームを防ぐ仕組みへつなげる
飲食店クレーム対応の実践例文集
クレーム対応で「何を言えばいいのか分からない」という声は非常に多いです。
ここでは、現場ですぐに使える実践的な例文をカテゴリ別に紹介します。
口調や状況に合わせて、スタッフ教育用マニュアルとしても活用できます。
① 接客態度へのクレーム対応例文
接客態度に関するクレームは、「印象の問題」でありながら最も感情的になりやすいもの。
まずは誠意を示すことを最優先にしましょう。
「この度はスタッフの対応でご不快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ございません。
当時の状況を確認し、今後同じことがないよう教育を徹底いたします。」
ポイント:
・言い訳や事情説明よりも「お詫び+改善の約束」を先に伝える
・「ご指摘ありがとうございます」という感謝を添えると印象が和らぐ
② 料理・品質へのクレーム対応例文
味や品質への不満は、お客様の信頼を損ないやすいデリケートな領域です。
一言目で誠意を伝えましょう。
「ご提供した料理に不備があり、ご迷惑をおかけいたしました。
すぐに新しいお料理をご用意いたします。ご希望があれば料金は頂きません。」
ポイント:
・「確認します」ではなく「すぐに対応します」でスピード感を出す
・再発防止の意識を必ず伝える(例:「厨房スタッフと情報共有いたしました」)
③ 会計・料金トラブルの例文
金銭に関するクレームは、誠実さが何よりも大事です。
事実確認の前にまず謝意を伝え、誤解を防ぎましょう。
「お会計の内容についてご不快な思いをさせてしまい、申し訳ございません。
すぐに内容を確認し、誤りがあれば訂正いたします。」
ポイント:
・感情的にならず、事実を一緒に確認する姿勢を見せる
・正しい場合も「ご指摘ありがとうございます」と感謝を忘れない
④ 電話・メールでの対応文例
店舗での対応が難しい場合や、後日連絡が来た場合は文面での謝罪力が求められます。
以下のようなテンプレートが汎用的に使えます。
件名:お詫びと今後の対応について
〇〇様
この度は当店の対応によりご不快な思いをおかけし、誠に申し訳ございません。
ご指摘いただいた点をスタッフ全員で共有し、再発防止に努めてまいります。
今後ともご愛顧のほど、よろしくお願い申し上げます。
〇〇店 店長 △△
ポイント:
・テンプレ感を出さずに、具体的な再発防止策やお客様の名前を入れると誠実さが伝わる
・返信までのスピード(24時間以内)が信頼維持の鍵
⑤ 再来店を促すフォロー文例
対応後、フォローを入れることで「誠実なお店」という印象を強く残せます。
「先日はご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございませんでした。
改善を行い、より快適にお過ごしいただけるよう努めております。
よろしければ、ぜひまたお立ち寄りくださいませ。」
ポイント:
・“謝罪”から“信頼回復”へとトーンを切り替える
・期間限定の割引や特典を提案するのも効果的
🔍ポイントまとめ
- クレーム対応の基本は「スピード+誠意+再発防止」
- 文章では感情が伝わりづらいため、丁寧語+名前+具体策で誠実さを強調
- どんな文面も、「お客様を責めない・スタッフを守る」のバランスを意識
やってはいけないNG対応とその理由
クレーム対応で最も避けるべきなのは、「誠意のない対応」や「感情的な言動」です。
一度の失敗対応が、SNS拡散や口コミ炎上につながることもあります。
ここでは、よくあるNG対応とその改善策を具体的に紹介します。
・感情的な反論/防御的な態度
「こちらに非はない」「そんなことは言っていません」など、防御的な言葉は絶対に避けましょう。
お客様は“勝ち負け”を求めているのではなく、“気持ちを理解してほしい”のです。
❌「それはお客様の勘違いでは?」
⭕「ご不快な思いをさせてしまい、申し訳ございません。状況を確認させていただきます。」
感情的な言葉を使うと、たとえ正論でも「態度が悪い」と捉えられてしまいます。
一度悪印象を持たれると、その後の説明も届きません。
・他人やシステムへの責任転嫁
❌「アルバイトがやったことなので」
❌「システムの不具合でして……」
責任転嫁の言葉は、“逃げ”の印象を与えます。
たとえ自分の過失でなくても、まずは店舗として謝罪する姿勢が大切です。
⭕「店舗の管理不足でご迷惑をおかけしました。責任をもって対応いたします。」
そのうえで原因を説明すれば、誠実さとして受け取ってもらえます。
・曖昧な謝罪・テンプレ対応
「ご迷惑をおかけしました」という言葉だけでは、心がこもっていない印象を与えます。
また、同じテンプレートを繰り返すと、マニュアル的で冷たい印象に。
❌「申し訳ございません。気をつけます。」
⭕「〇〇の件につきまして、不快な思いをさせてしまい申し訳ございません。
スタッフ全員で共有し、今後同じことがないように改善いたします。」
具体的な内容を添えるだけで、誠実度は何倍も上がります。
・SNS対応ミス(不用意な投稿・炎上)
近年最も注意すべきなのが、SNSでの誤対応です。
匿名での投稿が多く、「言い返したくなる」気持ちに駆られることもあるでしょう。
しかし、SNSでの反論は炎上を拡大させるだけです。
❌「事実とは異なります」
⭕「ご指摘いただきありがとうございます。内容を確認し、誠実に対応いたします。」
基本は、公の場では感謝と誠意のみを伝え、必要に応じてDMやメールなど非公開の場で対応します。
🔍ポイントまとめ
- クレーム対応では「言い方」ひとつで印象が変わる
- 感情・責任転嫁・曖昧表現・SNS対応の4つが主なNG要素
- “誠実な姿勢”を徹底することが、最も確実なリスク回避策
クレームを「信頼」に変える再発防止とスタッフ教育
クレーム対応は、その瞬間だけで完結するものではありません。
むしろ本質は「同じクレームを繰り返さない仕組みづくり」にあります。
ここでは、現場で実践できる再発防止策と、スタッフ教育のポイントを紹介します。
再発防止のための記録と共有
まず重要なのは、クレーム内容の記録と情報共有です。
「誰が・どんな対応を・どう終えたか」を明文化し、チーム全体で改善に活かします。
対応履歴を残すことで、
- 同じミスの再発を防げる
- 新人スタッフへの教育資料になる
- 店舗全体の信頼性を高められる
といった効果があります。
クレーム報告書を「ネガティブな書類」ではなく、改善データベースとして扱う姿勢が大切です。
ロールプレイ研修の導入
現場対応力を鍛えるには、ロールプレイ(模擬対応)が最も効果的です。
マニュアルを読むだけでは、実際の緊張感や言葉選びの難しさは身につきません。
月1回の短時間でも、以下のような内容を繰り返すと効果があります。
- クレーム内容の想定(接客・料理・衛生など)
- 対応の言い回しをペアで練習
- 上司がフィードバックを行い、改善点を共有
こうした小さな積み重ねが、スタッフの“対応の引き出し”を増やします。
報告・連携のルールづくり
多くのクレームが悪化する理由は、「共有不足」です。
アルバイトが対応して終わり、店長が把握していない──そんなケースは要注意です。
- クレーム発生時は即時報告をルール化
- 対応後は「結果」「お客様の反応」を共有
- 改善案を週次ミーティングなどで共有
この仕組みを整えることで、店舗全体がクレームに強い組織になります。
クレームを“感謝”に変える文化を育てる
一歩進んだ店舗では、クレームを「不運な出来事」ではなく、改善のチャンスとして捉えています。
スタッフ全員が「ご指摘=信頼の証」と思えるようになると、対応の質は劇的に上がります。
「教えていただけてありがたい」
「次に生かせる情報をもらえた」
そうした前向きな文化づくりが、顧客満足度と従業員満足度を同時に高めるカギです。
🔍ポイントまとめ
- クレーム対応の本質は「再発防止」と「教育」
- 記録・共有・ロールプレイ・報告体制を仕組み化
- クレームを“改善データ”として活かす姿勢が信頼を育てる
過度なクレーム・カスタマーハラスメントへの対応
すべてのクレームが「正当な指摘」とは限りません。
中には、過剰な要求や理不尽な言動を繰り返す、いわゆるカスタマーハラスメント(カスハラ)も存在します。
飲食店においても近年増加傾向にあり、スタッフを守るための体制整備が欠かせません。
カスタマーハラスメントとは?
カスタマーハラスメントとは、お客様の立場を悪用した過度なクレーム行為のことを指します。
たとえば以下のようなケースです。
- 大声での恫喝・罵倒
- 謝罪を何度しても許さない
- SNSでの投稿を盾にした要求
- 「無料にしろ」「金を払わない」といった一方的な主張
こうした行為は「顧客の意見」ではなく、スタッフへのハラスメント行為です。
毅然と対応する必要があります。
対応の基本姿勢
- 冷静に記録を取る 発言内容・時間・対応者を詳細にメモし、事実関係を残します。
- 複数名での対応に切り替える 1対1のやり取りは避け、店長・責任者が同席して客観性を保ちます。
- 一定ラインで対応を打ち切る勇気を持つ 明らかに過度な要求が続く場合、謝罪を繰り返す必要はありません。
「申し訳ございませんが、これ以上のご要望にはお応えいたしかねます。」
「これ以上の対応は本部(または弁護士)を通してお願い申し上げます。」
誠意をもって対応しても改善しない場合は、毅然と線を引くことが“正解”です。
スタッフを守るための体制づくり
店舗全体で以下の仕組みを整えておきましょう。
- クレーム内容を共有・蓄積する報告システム
- 「暴言・恫喝・長時間拘束」などの明確なハラスメント基準を設定
- 警察・弁護士・商工会議所などの相談先リストを用意
こうしたルールがあれば、スタッフは安心して働けます。
「お客様の言うことは絶対」ではなく、「スタッフの尊厳を守る文化」へと変えていくことが大切です。
🔍ポイントまとめ
- カスハラは「クレーム」とは別物。毅然と線を引く勇気を持つ
- 記録・複数対応・報告体制の3本柱でスタッフを守る
- 組織として「守られる安心感」が、対応力の底上げにつながる
まとめ|クレーム対応は「信頼を育てるチャンス」
クレーム対応は、誰にとっても気持ちのいい仕事ではありません。
しかし、その一つひとつの対応が、お客様との関係を深める大切な瞬間です。
誠実に耳を傾け、丁寧に対応し、改善の姿勢を見せる。
それだけで「不満」だった感情が、「理解されて嬉しい」という信頼に変わります。
クレームを恐れるよりも、改善のきっかけとして感謝できる店舗文化を育てましょう。
小さな誠意の積み重ねが、あなたの店のブランドを守り、強くしていきます。
🔍ポイントまとめ
- クレーム対応は“危機管理”ではなく“信頼構築”のプロセス
- 迅速・誠実・具体的な改善が3原則
- 「誠意ある対応=最強のマーケティング」である