なぜ今、飲食店の売買・M&Aが注目されているのか?
ここ数年、飲食業界では店舗の売買やM&A(企業の合併・買収)という選択肢が、以前よりも現実的で身近なものとして浸透し始めています。特に2020年代に入ってからは、その傾向が顕著です。背景には、経営者の高齢化や後継者不足といった構造的な問題に加え、コロナ禍による環境変化、新たなビジネス機会を狙う動きが複合的に影響しています。
この章では、飲食店の売買やM&Aがなぜこれほどまでに注目を集めているのか、その要因を掘り下げて解説します。
飲食店のM&A市場が伸びている背景
飲食業界におけるM&A件数は、近年右肩上がりで増加しています。これにはいくつかの明確な背景があります。
1. 経営者の高齢化と後継者不足
中小企業庁によると、国内企業のうち約7割が後継者不在という統計もあります。飲食業界では、個人経営や家族経営の店舗が多いため、事業承継が難航するケースが少なくありません。「もう店を続ける体力はないが、閉店するには惜しい」と感じる経営者にとって、M&Aは自分の店を“次につなげる”有効な選択肢となります。
2. 経済環境の変化と競争の激化
コロナ禍や物価高、エネルギーコストの上昇により、飲食店経営はますます厳しくなっています。特に小規模な店舗では、思うように売上が伸びず、資金繰りが厳しいという声も少なくありません。そうした中で、「今のうちに店舗を売却したい」と考えるオーナーが増えているのです。
3. ビジネスチャンスを狙う買い手の増加
一方で、飲食業界の成長可能性に注目し、新規参入やエリア拡大を目指す企業も多く存在します。自社のノウハウやリソースを活用し、既存店をうまく再生・再活用することで、スピード感のある出店戦略が可能になります。ゼロから始めるよりもリスクを抑えて進められるため、特にフードビジネス経験者や複数店舗経営者の間で人気が高まっています。
小規模飲食店でも売却・買収が活発な理由とは?
かつては、M&Aといえば大企業同士の話という印象が強く、小規模店舗にとっては縁遠いものでした。しかし、今や個人経営のカフェや居酒屋でも「売れる時代」になっています。その背景には、業界全体の環境整備があります。
1. M&Aプラットフォームの台頭
ここ数年で、BATONZ(バトンズ)やTRANBI(トランビ)、M&AクラウドといったM&Aマッチングサービスが急成長しています。これらのプラットフォームは、売り手と買い手をスムーズに結びつけるオンライン市場として機能し、従来よりも手軽に飲食店の売買を実現できるようになりました。売り手は匿名で情報掲載ができ、買い手は条件に合った案件を検索・交渉できます。
2. 居抜き物件のニーズ拡大
飲食店を新規で立ち上げるには、内装費や厨房設備など初期投資が大きくのしかかります。そこで注目されているのが「居抜き物件」です。すでに営業していた店舗の設備をそのまま使えるため、初期費用を大幅に削減できるのが大きな魅力です。加えて、すでに地域に認知されている場合も多く、開業初期の集客リスクも抑えられます。
3. 地域密着型店舗の価値向上
ローカルで支持されている小さな飲食店には、数字では測れない“地域の信頼”という無形資産があります。その土地で長年愛されてきた店舗を引き継ぐことで、新たなオーナーもゼロからブランドを築く必要がなく、集客・人材確保の両面で有利に働くケースも多いのです。
このように、飲食店の売買やM&Aは、経営上の出口戦略としてだけでなく、ビジネスの成長手段としても大きな注目を集めています。次の章では、飲食店を「売る側」が知っておくべき基本的な知識と、具体的な進め方についてご紹介していきます。
飲食店を「売る側」が知っておくべき基礎知識
「そろそろ店をたたもうか」「閉店するのはもったいない」──そんなとき、第三者への売却という選択肢を思い浮かべたことはありませんか?
飲食店の売却は、廃業とは異なる“もう一つの出口戦略”です。ここでは、店舗を売る際に知っておきたい基本的な考え方から、実際の進め方、価格の決まり方、失敗しやすい落とし穴までをまとめて解説します。
飲食店を売る選択肢と主な方法(仲介・直接交渉・M&A仲介)
飲食店を売却するには、いくつかの方法があります。それぞれの特徴と向き不向きを知っておきましょう。
1. M&A仲介サービスを使う
M&Aの専門業者を利用する方法です。専門家が売り手と買い手の間に入り、価値算定から交渉、契約書作成までサポートしてくれます。
- メリット: 市場価格に近い価格で売れる可能性が高い/買い手とのマッチングの幅が広い
- デメリット: 手数料が発生(売却価格の5~10%程度が一般的)
2. 居抜き物件として不動産会社に相談
内装・設備を残したまま貸し出す、いわゆる“居抜き物件”として不動産業者経由で売却を目指す方法です。特に店舗向け専門の不動産会社と連携するとスムーズです。
- メリット: 設備価値を評価してもらいやすい
- デメリット: 業態やブランドの引き継ぎは難しい
3. 知人や業界内での直接交渉
同業者や知人経由で売却を進めるケースもあります。信頼関係があると話が早く進む一方で、法務や税務の確認は自己責任になります。
- メリット: 交渉コストが少なくスピード感がある
- デメリット: トラブル時の対応に注意が必要(契約内容が不十分になりがち)
飲食店売却の一般的な流れ【7ステップ】
実際に店舗を売却する際のステップを、一般的なフローに沿って見ていきましょう。
① 目的と条件の整理
売却の目的(リタイア・移転・経営難など)と、売却希望価格、譲渡対象(設備・ブランド・人材)を明確にします。
② 査定・価値の確認
M&A仲介会社や税理士に依頼し、事業価値を算出。必要に応じて、損益計算書や設備台帳を整理します。
③ 情報公開とマッチング
仲介業者のサイトやネットワークを通じて買い手を募集。匿名掲載が一般的です。
④ NDA(秘密保持契約)締結
本格的な情報開示前に、買い手候補とNDAを結びます。
⑤ 面談・条件交渉
買い手と直接会い、売却価格や譲渡範囲、引き継ぎ条件などをすり合わせます。
⑥ 契約締結
合意が取れたら、譲渡契約を締結。専門家に契約書を作成してもらうのが安全です。
⑦ 引き渡し・決済
設備や資産、人材、取引先の引き継ぎを行い、代金の支払いを受けて完了となります。
売却価格はどう決まる?相場と評価方法(収益還元法・資産法など)
飲食店の売却価格は、「いくらで売れるのか?」という最も関心の高いポイントです。価格決定の主な方法は以下の3つです。
・収益還元法(利益ベース)
将来見込まれる利益をもとに価値を算定する方法。たとえば、年間利益300万円の店舗に対し、「3年分の利益=900万円」が目安になることもあります。
・資産ベース法(設備・内装など)
厨房機器、テーブル、什器、内装などの簿価を評価します。収益が出ていない場合でも、設備の価値は残るため、この方法が採用されます。
・市場比較法
同じエリア・規模・業態の過去の取引実績から相場を割り出す方法。マッチングサイトの過去事例が参考になります。
✅ ワンポイント
利益が出ていなくても、立地や内装、ブランド力によっては高値で売れることもあります。「赤字=売れない」とは限りません。
よくある失敗パターンと回避策
飲食店の売却には落とし穴も多く、準備不足のまま進めると損失を被る可能性があります。以下は典型的な失敗例です。
❌ 安易に価格設定をして売れ残る
→ 対策: プロの査定を受け、価格根拠を明確に。
❌ 従業員や顧客に突然伝えて混乱を招く
→ 対策: 引き継ぎ計画と情報開示のタイミングを慎重に調整。
❌ 契約書が不完全でトラブルに
→ 対策: 弁護士や行政書士のチェックを必ず挟む。
飲食店を「売る」という選択は、単なる撤退ではなく、次のステージへバトンをつなぐ前向きな決断です。しっかりと準備し、信頼できる専門家と組むことで、後悔のない売却を実現しましょう。
飲食店を「買う側」が押さえるべきポイント
「ゼロから始めるのは大変だから、既存の店舗を引き継ぎたい」「人気エリアの店を買ってすぐに営業を始めたい」――そんなときに選ばれるのが、飲食店の“買収”という手段です。
ここでは、飲食店を買う際に押さえておくべきポイントを、方法・メリット・リスクの3軸から詳しく解説します。
飲食店を買う3つの方法とそれぞれの特徴(居抜き/M&A/事業譲渡)
飲食店の買収といっても、方法はひとつではありません。目的やリスク許容度によって、最適な手法は異なります。
1. 居抜き物件の取得
居抜きとは、前の飲食店が使用していた厨房機器や内装などをそのまま譲り受ける形態のことです。不動産会社を通じて物件を契約し、営業許可などを再取得すれば、すぐに開業できます。
- 向いている人: 早く・安く出店したい、業態を自分で作りたい人
- 注意点: ブランドは引き継げない/内装・設備の状態確認が必須
2. M&Aによる店舗買収
法人や個人事業主が、まるごと既存店を買収する方法です。ブランド、スタッフ、取引先なども引き継げるのが特徴です。M&Aプラットフォームを利用するケースが増えています。
- 向いている人: 既存の運営体制・ブランドをそのまま活かしたい人
- 注意点: 財務・契約関係の確認が重要/引き継ぎ体制の有無を要チェック
3. 事業譲渡による取得
会社や個人が持つ店舗資産やノウハウのみを切り出して譲渡する形です。法的にはM&Aの一形態ですが、会社全体を引き継ぐわけではないため、リスクが比較的少なく済みます。
- 向いている人: 店舗のノウハウだけ欲しい、事業単位で取得したい人
- 注意点: 譲渡内容が曖昧になりやすい/人的資源が抜ける可能性あり
買収のメリット・デメリット|新規開業との違い
【メリット】
- 初期費用を抑えられる 内装や設備がすでに整っているため、イチから工事をする必要がなく、コストを大幅に圧縮できます。
- スピーディに開業できる 既存店舗の営業許可やオペレーションを引き継ぐことで、数週間〜数ヶ月で開業が可能です。
- ブランド・顧客基盤の継承 口コミ、SNSフォロワー、常連客など、時間とお金をかけて育てた資産を活かせます。
【デメリット】
- 店舗の状態や数字に“クセ”がある 設備の劣化や売上のバラつき、スタッフの習慣など、表面に出にくいリスクが存在します。
- 思っていたイメージと違うケースも 実際に営業してみて「地域に合っていない」「思ったより赤字だった」などのギャップが生じる可能性もあります。
✅ ワンポイントアドバイス
買収前にはDD(デューデリジェンス)=事業精査をしっかりと行いましょう。第三者の専門家によるチェックがトラブル防止の鍵になります。
買収時に注意すべき契約・法務・人材・風評リスク
飲食店買収には、実務面でも多くの確認ポイントがあります。後悔しないために、以下の要素は最低限押さえておきましょう。
▷ 契約条件と譲渡範囲の明確化
契約書における「何を、どこまで引き継ぐのか?」は極めて重要です。店舗だけでなく、冷蔵庫の在庫、SNSアカウント、レシピなどの知的財産も確認を。
▷ 法務・財務の健全性チェック
債務超過や未払い税金が残っていないか、契約関係でトラブルがないかなど、プロによる精査が不可欠です。M&Aの専門家や税理士の同席が理想です。
▷ 人材の引き継ぎと雇用契約の確認
既存のスタッフがどのような雇用形態で働いているか、買収後も残ってくれるかなども事前に確認しましょう。特にシェフや店長がキーパーソンの場合、継続雇用が営業に直結します。
▷ 地域内での評判とリスク調査
SNSやレビューサイトでの口コミ、近隣住民からの評判も重要な情報です。風評リスクを見落とすと、集客や人材採用に影響を及ぼす可能性があります。
飲食店の買収は、成功すれば即戦力の資産になります。一方で、数字の裏側や人の要素まで見逃さずチェックする冷静さも必要です。
次章では、こうした買収や売却を成功させるためのチェックリストをご紹介します。
飲食店M&Aを成功させるためのチェックリスト
M&Aは「うまくいけば最短ルート、失敗すれば最大損失」。
飲食店のM&Aは金銭面の損得だけでなく、人間関係やブランドの存続にも関わる、繊細なプロセスです。
ここでは、売り手・買い手の両方にとって“失敗しないM&A”を実現するために必要なチェックポイントを、実務ベースでご紹介します。
財務・税務の確認ポイント
飲食店は現金商売であることが多く、帳簿と実態がズレていることも珍しくありません。数字が「本当に信用できるか」を確認する作業が不可欠です。
チェック項目例:
- 過去2~3年分の損益計算書(P/L)と貸借対照表(B/S)
- 月次売上・利益の変動(季節性や繁忙期の把握)
- 食材費・人件費の比率(適正水準かどうか)
- 未払金・借入金・家賃の滞納有無
- 税金の申告状況と納税履歴(滞納の有無)
✅ アドバイス:
帳簿の数字だけでなく、POSレジのデータやシフト表、レジ締め報告も合わせて確認すると実態がつかみやすくなります。
運営体制・人材の引き継ぎ体制は?
M&Aの成否は、「誰が残るか」「誰が抜けるか」に大きく左右されます。特に、現場責任者やシェフ、パティシエが離れることで、顧客離れが起きるケースも。
チェック項目例:
- キーパーソンの在籍有無と残留意思
- スタッフの雇用契約形態(社員・アルバイト)
- 店舗オペレーションのマニュアル化状況
- 引き継ぎ期間の設定とサポート内容
✅ 現場の声を拾う:
「従業員インタビュー」を行うことで、表に出ない課題(不満・人間関係・離職意向)を発見できます。
買い手・売り手が信頼関係を築くための工夫
M&Aがうまくいくかどうかは、数字や制度以上に「人と人との相性」によるところが大きいです。売り手が誠実であるか、買い手が理念を理解しているか。お互いの姿勢が見えることで、交渉の流れも変わります。
信頼構築のポイント:
- 面談の場で理念やビジョンを共有する
- 引き継ぎ期間を柔軟に設定する(1ヶ月以上が理想)
- トラブル時の相談窓口を設ける
- 中立的な専門家(税理士・司法書士・M&Aアドバイザー)を立てる
✅ 豆知識:
感情的な衝突を避けるには、交渉の中盤以降は“買い手と売り手が直接交渉する場”を一度設けるのがおすすめです。
飲食店M&Aは「契約して終わり」ではありません。むしろ、契約の後からが本当のスタートです。
感情・人材・地域との関係性など、見えにくいリスクにこそ目を向けておくことが、成功への鍵となります。
次章では、こうしたM&Aを支えてくれる仲介会社やマッチングプラットフォームの選び方について解説します。
信頼できるM&A仲介会社・マッチングサービスの選び方
飲食店の売買を検討するとき、多くの人が最初に悩むのが「どこに相談すればいいのか?」という点です。
適切なM&A仲介会社やマッチングプラットフォームを選ぶことで、価格交渉・手続き・契約などの負担を大幅に軽減できます。
ここでは、飲食業界で実績のある主要なサービスを紹介しながら、選び方のポイントを解説していきます。
主な仲介会社・マッチングサービスの比較
【BATONZ(バトンズ)】
日本最大級のM&Aマッチングサービス。個人〜中小企業向けの案件が豊富で、飲食店の掲載数も多いです。匿名掲載OK。買い手向けにファイナンス提携も。
- 特徴: 売り手・買い手ともに登録無料、案件数が多く初心者でも使いやすい
- 対応範囲: 譲渡価格100万円〜数億円まで幅広い
【TRANBI(トランビ)】
M&Aプラットフォームの草分け的存在。中小企業や個人事業主向けの事業譲渡案件が豊富で、操作画面もシンプル。
- 特徴: 売り手が自分で案件情報を細かく管理できる/UIが見やすい
- 対応範囲: 飲食、サービス、EC、製造など幅広い業種に対応
【M&Aクラウド】
IT・成長企業向けに特化したマッチングサイト。買収意欲のある企業からの「買いたいリスト」に自社を売り込むスタイル。飲食店向けにはやや上級者向け。
- 特徴: 企業間M&Aに強い/条件交渉に慣れた層向け
- 対応範囲: 法人のM&A・多店舗展開を狙う企業におすすめ
🔍 その他の選択肢
地元の商工会議所、税理士事務所、業界専門の不動産会社もM&A案件を扱うことがあります。「近くの誰かに引き継ぎたい」ならローカルネットワークを活かすのも有効です。
仲介会社を使うメリット・デメリット
信頼できる仲介会社やプラットフォームを活用することで、プロのサポートを受けながら安全にM&Aを進めることができます。ただし、費用や対応スタンスには注意が必要です。
【メリット】
- 法務・財務・契約などの専門サポートが受けられる
- トラブル時の仲裁や調整を任せられる
- 買い手・売り手との交渉をスムーズに進めやすい
- 案件の市場価値を客観的に評価してもらえる
【デメリット】
- 成約時の成功報酬(5〜10%程度)が必要
- 担当者によって対応の質に差が出る可能性がある
- 自分のペースで情報を出しにくいことがある
✅ チェックポイント:
担当者の経験年数、飲食業界への理解度、過去の成約実績を確認しておくと安心です。契約前には必ず「報酬体系」と「途中キャンセル時の条件」もチェックしましょう。
M&Aの仲介会社は、単なる“情報仲介”にとどまらず、あなたの店舗の未来を左右する重要なパートナーです。
「高く売れるか」「安心して引き継げるか」は、誰に頼むかで決まると言っても過言ではありません。
次章では、飲食店M&Aをめぐって実際によくある疑問や不安に対するQ&A形式の解説を行います。
よくあるQ&A|飲食店の売買・M&Aに関する疑問に答えます
飲食店の売買やM&Aに関心があっても、「うちの店でも売れる?」「買った後ってどうなるの?」といった疑問や不安を抱える人は多いはずです。
ここでは、実際によく寄せられる質問をQ&A形式で取り上げ、専門的な観点からわかりやすく解説します。
Q1. 赤字の飲食店でも売れる?
A. はい、条件次第で売却可能です。
「赤字だから売れない」とあきらめるのは早計です。赤字の原因が一時的なものであれば、立地や内装、顧客基盤などに価値を見出す買い手も少なくありません。
特に次のようなケースでは売却が成立する可能性があります:
- 改装済みの店舗で、設備が充実している
- エリアの需要が高く、新規出店の難易度が高い
- SNSや口コミで一定の認知がある
- 自分では立て直せないが、別の経営者なら改善できると判断される
✅ POINT:
売却時には「損益計算書だけ」で判断されるわけではありません。店舗そのもののポテンシャルや、買い手の戦略との相性も重視されます。
Q2. 従業員の雇用はどうなる?
A. 原則、買い手との合意によって決まります。
M&Aで店舗を譲渡する場合、スタッフをそのまま引き継ぐかどうかは、事前の交渉で取り決めます。特にキーパーソンとなる店長や料理長が残るかどうかは、買い手にとって大きな判断材料となります。
引き継ぎ時の注意点:
- 雇用契約の内容(時給・勤務時間・雇用形態)を明示しておく
- スタッフの引き継ぎ意向を事前に確認しておく
- 新オーナーとの面談機会を設けると不安が軽減される
✅ 注意:
勝手に「継続雇用されるもの」と考えて話を進めるのは危険です。スタッフへの事前説明と合意が不可欠です。
Q3. 税金はどう処理すればいい?
A. 譲渡益に対しては原則として「譲渡所得税」がかかります。
店舗売却で利益が出た場合、個人事業主であれば「譲渡所得」、法人であれば「法人税」の対象になります。
基本の考え方:
- 個人の場合: 売却価格 − 減価償却後の取得費 − 譲渡費用 = 譲渡所得
- 法人の場合: 売却によって得た利益は法人税の課税対象に
また、店舗の設備や備品の譲渡が含まれる場合には「消費税」の対象になることもあるため、契約書に明記する必要があります。
✅ アドバイス:
複雑な税務処理は、税理士などの専門家に事前相談するのがおすすめです。申告漏れや誤計算による追徴リスクを防ぐことができます。
飲食店のM&Aには、多くの“初めて”がつきものです。不安や疑問を一つずつクリアにしていくことで、より納得感のある取引が可能になります。
次はいよいよ最終章。これまでの内容を踏まえ、「成功のために必要な姿勢と準備」についてまとめていきます。
まとめ|飲食店を売る・買う前に、正しい知識と信頼できるパートナーを
飲食店の売買やM&Aは、決して特別な人たちだけのものではありません。むしろ、経営に悩むオーナーや、新たな一歩を踏み出したい起業家にとって、ごく現実的で、そして魅力的な選択肢の一つです。
売る側にとっては「閉店ではなく、誰かに店を託す」ための手段。
買う側にとっては「ゼロからではなく、実績や設備を引き継いで始める」ための近道。
ただし、その選択肢を成功させるには、正確な知識と、信頼できるパートナーの存在が欠かせません。
本記事の振り返りポイント
- なぜ今、飲食店M&Aが注目されているのか? → 後継者不足・経済変化・新規参入意欲の高まりが背景にある
- 売る側が押さえるべきポイント → 売却方法・流れ・価格の決まり方・失敗パターンの回避
- 買う側が注意すべき点 → 手法の違い、メリット・デメリット、法務・人材リスク
- 成功させるための条件 → 財務・雇用・引き継ぎ体制・信頼構築の徹底
- 信頼できるM&Aサービスの活用 → BATONZやTRANBIなど、目的に応じて選定を
最後に|“引き継ぐ”ことは未来をつくること
飲食店は、人と人とが出会い、地域と文化が交差する「場」そのものです。
そこに込められた想いや努力、ファンとの関係性を、次の世代につなぐ――それがM&Aの本質的な価値なのかもしれません。
あなたの決断が、誰かの挑戦と出会い、より良い飲食シーンを生み出す第一歩になることを願っています。