飲食店を開くとき、誰もが最初にぶつかる壁が「物件契約」です。

内見で理想の場所を見つけてワクワクする一方で、「どんな手順で契約が進むの?」「どこに注意すればいい?」と不安に感じる人も多いはずです。

実は、契約の流れをきちんと理解しておくことで、思わぬトラブルや余計な出費を防ぐことができます。

たとえば「飲食店可」と書かれていても、電気や排気設備の条件によっては実際に営業できないケースも。

あるいは契約書の一文を見落としたことで、退去時に高額な原状回復費を請求された──そんな話も珍しくありません。

この記事では、初めて飲食店を開業する方や、移転を考えているオーナーに向けて、物件探しから契約、引き渡しまでの流れをわかりやすく整理します。

あわせて、契約で注意すべきポイントや、交渉のコツ、よくある失敗例も具体的に紹介。

最後にはすぐに使えるチェックリストも用意しました。

物件契約はスピードと慎重さのバランスが大切です。

この記事を読めば、「焦らず」「損せず」に、納得のいく契約ができるようになります。

ではさっそく、飲食店物件の契約がどのように進むのか、順を追って見ていきましょう。

飲食店物件の契約はこう進む!全体の流れを時系列で理解しよう

飲食店の物件契約は、一見シンプルに見えても実際には多くのステップがあります。

「いい物件が見つかった!」と思ってからオープンまでには、内見 → 申込み → 条件交渉 → 契約締結 → 引き渡し → 開業準備という流れを踏むのが一般的です。

どの段階でも「確認不足」が命取りになりかねないため、それぞれのフェーズで何をすべきかを整理しておきましょう。


ステップ① 物件探し|エリア・条件の整理が成功の鍵

店舗探しのスタートは「理想のエリア選び」から。

ただし感覚だけで決めてしまうと、思わぬ固定費の重さや集客難に直面します。

まずは次の3つを軸に考えるのがおすすめです。

1. 商圏・導線・周辺競合の分析

ターゲットとなる客層が日常的に行き来するエリアを選びましょう。

駅からの動線、昼夜の人通り、近隣の飲食店の業態・価格帯をチェック。

たとえば同じカフェでも、住宅街とオフィス街では必要な回転率がまったく異なります。

2. 賃料・坪単価・保証金などの相場感を把握

「この立地でこの家賃は高いか安いか?」を判断できるように、複数の物件を比較しましょう。

坪単価(家賃÷坪数)は、エリアごとに想像以上の差があります。

また、保証金・共益費・更新料などの諸条件も合わせて総コストで検討するのがポイントです。

3. 居抜き物件 or スケルトン物件の選択

内装や設備が残っている居抜きは初期費用を抑えやすく、スピーディーに開業できます。

一方、スケルトンは内装を一から設計できる自由度が魅力。

ただし工事費は高くなりがちです。

「自分の業態に合う設備があるか」「前テナントの造作が使えるか」を冷静に見極めましょう。

【チェックリスト】希望条件に含めるべき項目

  • 希望エリア(駅・徒歩圏など)
  • 面積・坪数・想定席数
  • 家賃上限(月売上の10〜15%を目安)
  • 電気・ガス・排水容量
  • 居抜き or スケルトン
  • 保証金・共益費・更新料の有無
  • 騒音・臭気・搬入経路など周辺環境

理想の物件像を明確にしておくことで、内見時の判断がブレず、余計な迷いを減らせます。


次は、いよいよ現地での「内見・確認」フェーズ。

“飲食店可”と書かれていても油断は禁物です。

思わぬ設備制約やトラブルを避けるためのチェックポイントを見ていきましょう。

ステップ② 内見・現地確認|“飲食店可”でも落とし穴がある

内見は、物件の「見た目」だけでなく「営業できる条件」を見極める重要な場面です。

「飲食店可」と書かれていても、すべての業態が許可されるわけではありません。

カフェはOKでも焼肉や中華はNGというケースも多く、現地での確認不足が命取りになります。


電気容量・ガス圧・排煙ダクト・排水経路の確認

飲食店営業において、電気やガス・排気設備は生命線です。

これらが足りないと、内装工事で莫大な追加費用が発生します。

  • 電気容量:コーヒーマシンやオーブン、冷蔵庫を複数使う業態では、最低でも60A以上(業務用なら三相200V対応)が必要です。古いビルでは容量が低く、増設が困難な場合もあります。
  • ガス圧:ガスコンロやオーブンを多用する厨房では、ガス圧が弱いと火力不足に。都市ガスかプロパンかによっても対応が異なります。
  • 排煙・排気設備:ダクトを外に伸ばせるかどうかは、ビル構造次第。特に上階や隣接建物への臭気トラブルは非常に多いです。
  • 排水経路:グリストラップ(油分除去装置)が設置できるかも要確認。これがないと保健所の許可が下りません。

✅ ポイント

  • 「厨房を置きたい場所」に電気・ガス・排水が届くか
  • 増設・配線工事が可能か
  • オーナーや管理会社の工事許可範囲を事前に確認

消防法・用途地域(第一種住居地域など)の確認

内装を設計する前に、法律上その場所で飲食店を営業できるかを必ずチェックしましょう。

  • 用途地域によっては、飲食業の営業が制限される場合があります。 たとえば「第一種住居地域」では、深夜営業やアルコール提供を伴う店舗が制限されることも。
  • 防火地域・準防火地域に指定されている場合、耐火構造・防火扉などの仕様が求められ、内装コストが大幅に増える可能性があります。
  • 消防設備の確認も重要です。スプリンクラー、火災報知器、避難経路などの整備状況は、開業許可に直結します。

✅ 補足

行政のルールは自治体ごとに細かく異なるため、物件所在地の建築指導課・消防署・保健所に事前相談しておくのが安心です。


上下階テナント・臭気トラブル・ゴミ置き場・搬入経路

見落とされがちなのが、周辺環境との関係性です。

特に住宅併設ビルでは、臭気・音・搬入の問題が開業後のクレームにつながりやすくなります。

  • 上階が住居の場合、夜間営業や音楽のボリュームに制約がかかる
  • ゴミ置き場の利用ルールが厳しく、臭いや虫の問題で管理会社と揉めるケースも
  • 搬入経路が狭く、食材やドリンクの納品作業が非効率になることもある

✅ チェック項目

  • 上下階の用途(住居・オフィス・店舗)
  • ゴミ置き場の場所と使用ルール
  • 搬入・搬出経路の広さ、段差、エレベーター有無

【実例】排煙設備の制限で出店断念したケース

ある飲食オーナーは、立地と賃料の条件に惹かれて申込みを急ぎました。

しかし、ビルの構造上ダクトが外壁に出せず、排煙の経路が確保できなかったため、工事許可が下りませんでした。

結果として、契約直前で出店を断念。申込金は返還されたものの、デザイナーとの打合せ費用や時間は無駄になってしまいました。

このような例は珍しくありません。

「飲食店可」の言葉を鵜呑みにせず、実際にその物件で調理できるかをプロの内装業者と一緒に確認することが重要です。


次のステップでは、物件を気に入った後に進む「申込み・仮押さえ」フェーズを解説します。

ここではスピード感と同時に、契約条件を冷静に見極めるバランスが求められます。

ステップ③ 申込み・仮押さえ|スピードと慎重さのバランス

理想の物件が見つかったら、次は「申込み(仮押さえ)」のステップです。

人気エリアや好条件の物件は、迷っている間に他の希望者に取られてしまうことも。

スピード感が大切な一方で、焦りすぎると“高い授業料”を払うことになりかねません。

この段階では、仮押さえと契約の違い審査の流れ、そして融資とのタイミングをしっかり理解しておきましょう。


申込書提出〜審査〜仮押さえ金の流れ

物件を借りたい意思を示す最初の手続きが「入居申込書の提出」です。

この申込みは、まだ法的拘束力を持たない“仮段階”ですが、貸主はこれをもとに審査を進めます。

一般的な流れは以下の通りです:

  1. 入居申込書の提出 氏名(または法人名)、業態、予定オープン日、月商見込みなどを記入。 飲食業の場合、業態によって断られるケースもあるため、正確に記載しましょう。
  2. 申込金の支払い(仮押さえ金) 貸主や仲介業者によっては、申込み時に数万円〜数十万円の「申込金」を預けることがあります。 これは“優先交渉権”を得るためのもので、契約しなかった場合でも返金されるかどうかは事前確認が必須です。
  3. 入居審査(1〜5日程度) 個人・法人の信用情報、事業計画、過去の実績などが審査されます。 連帯保証人や保証会社を利用する場合もあります。
  4. 条件提示・契約意思の確認 審査が通ると、家賃・保証金・更新料などの最終条件が提示されます。 このタイミングで初めて、契約に進むかどうかを決めましょう。

✅ チェックポイント

  • 申込金の「返金条件」を書面で確認
  • 申込み後のキャンセルが可能か(違約金の有無)
  • 審査期間中に他の物件を同時検討しても問題ないかを仲介業者に確認

申込金・保証会社・連帯保証人の実務

最近では、個人オーナーでも保証会社の利用が必須というケースが増えています。

これは貸主が家賃滞納リスクを減らすための仕組みで、

保証料はおおむね「年間賃料の50〜100%」が相場です。

また、保証会社が入る場合でも「連帯保証人」を求められることがあります。

身内や信頼できるパートナーにお願いするケースが多いですが、

将来的にトラブルを避けるため、契約内容を共有し、署名前に必ず説明しておくことが重要です。


融資審査とタイミングの関係

多くの飲食店オーナーが悩むのが、「融資と契約のどちらを先に進めるか」という問題。

物件を押さえるためには申込みが必要ですが、融資が通らないと契約金を支払えません。

原則として、

  • *融資の事前審査(仮審査)**は申込み前に終わらせておく
  • 契約締結(本契約)は融資の正式承認後に行う のが安全です。

とはいえ、現実には「先に契約を進めてしまう」ケースもあります。

その場合、**融資が否決されたときにキャンセルできる条項(融資特約)**を入れておくのが理想です。

この一文があるだけで、数百万円単位のリスクを防げます。


💡 ワンポイントアドバイス

人気物件ほど判断の早さが求められますが、“早い契約”=“良い契約”ではありません。

契約書を確認せずに申込金を払う、審査条件を把握しないまま話を進めるのは避けましょう。

少なくとも、保証金・契約形態・解約条件の3点は申込み前に必ず確認しておくことが鉄則です。


次は、いよいよ物件を正式に借りるための「条件交渉」のステップへ。

家賃やフリーレント、内装条件など、ここでの一言が何十万円もの差を生むこともあります。

ステップ④ 条件交渉|家賃・フリーレント・内装条件をどう詰めるか

申込みが通ったら、いよいよ本格的な条件交渉フェーズに入ります。

この段階は、契約後の固定費や初期投資を大きく左右する重要ポイント。

一度契約してしまえば変更はほぼ不可能なので、交渉の質=経営リスクの軽減度と言っても過言ではありません。


フリーレント交渉のコツ

フリーレント(賃料免除期間)」とは、契約後しばらくの間、家賃を免除してもらう制度です。

飲食店の場合、内装工事や開業準備に1〜2か月かかるため、この期間をフリーレントとして交渉するのが一般的です。

たとえば、

「工事期間中の1か月分の賃料をフリーレントにしていただけないでしょうか?」

というように、具体的な工事スケジュールとともに依頼すると受け入れられやすくなります。

ただし、フリーレントをもらった代わりに**解約時のペナルティ(短期解約違約金)**が付く場合があります。

「6か月以内に退去したら1か月分の家賃を返金」などの条件がないか、契約書を必ず確認しましょう。


家賃・保証金・償却条件の見直し方

家賃交渉は敬遠されがちですが、市場相場を根拠に冷静に提案すれば通ることもあります。

特に次のような条件では、交渉余地が生まれやすいです。

  • 前テナントの退去から期間が空いている
  • ビル全体の空室率が高い
  • 長期契約を希望している(3年以上など)

交渉の際は、

「他エリアではこの条件で出ています」

「長期的に安定した営業を続けたい」

といった貸主側のメリットを強調することが大切です。

また、**保証金・償却(退去時の差引)**も見逃せません。

たとえば「保証金6か月・償却20%」という条件なら、退去時に家賃1.2か月分が戻らないということです。

契約期間や解約ルールとあわせて、トータルコストで比較しましょう。


居抜き譲渡時の造作譲渡費交渉の注意点

居抜き物件の場合、前テナントが残した内装・設備に対して「造作譲渡費」が発生します。

相場は数十万円〜数百万円。

ただし、譲渡費が“言い値”で決まるケースも多く、注意が必要です。

確認すべきは次の3点です。

  1. 機器・家具の所有権が誰にあるか(前テナント?貸主?)
  2. 残置物の動作確認・修理費負担は誰がするか
  3. 契約後に撤去を求められる可能性がないか

譲渡費を支払っても、ガスや排水位置のズレで結局使えないというケースもあります。

内装業者と現地を見て、再利用できる設備を判断してから契約書に金額を明記するのが鉄則です。


【失敗例】原状回復条項を曖昧にして高額請求されたケース

あるバル業態のオーナーは、居抜きで契約する際に「原状回復」の範囲を確認しないままサインしました。

契約書には「現状復帰すること」としか書かれておらず、退去時に貸主からスケルトン戻しを要求され、結果として数百万円の工事費を負担する羽目に。

このような事例を防ぐためには、

  • 原状回復の範囲を明文化(「天井・壁・床の仕上げを残す」など)
  • 退去時の状態を写真で記録しておく
  • 工事費の負担範囲を別紙で取り決める

といった対策が有効です。


💡 まとめポイント

  • フリーレント交渉は“工事期間の合理的説明”がカギ
  • 家賃交渉は貸主のメリット提示で通りやすくなる
  • 保証金・償却・原状回復は契約書で具体的に明記
  • 居抜きの場合は造作の所有権と再利用可否を確認

次は、いよいよ**「契約書の確認・締結」**フェーズです。

条文の読み違えひとつで、後悔するオーナーは少なくありません。

ここからは、弁護士も注目する“落とし穴”を一つずつ見ていきましょう。

ステップ⑤ 契約書の確認・締結|条文の理解がトラブル回避のカギ

契約交渉がまとまったら、いよいよ賃貸借契約書の確認・締結に進みます。

この段階での注意不足が、後々のトラブルの“種”になることが非常に多いです。

一文の解釈ミスで高額な修繕費や違約金を負うケースも珍しくありません。

ここでは、契約書で特に確認すべきポイントを整理していきます。


定期借家契約と普通借家契約の違いを理解する

まず最初に確認すべきは、「契約形態」です。

賃貸借契約には、主に普通借家契約定期借家契約の2種類があります。

契約形態契約期間更新貸主からの解約注意点
普通借家契約2年など自動更新あり正当な事由がない限り不可飲食店では一般的
定期借家契約任意(3年・5年など)更新なし(再契約必要)契約期間満了で終了再契約時に条件が変わることも

最近では、ビルオーナー側のリスク回避のために定期借家契約が増加傾向です。

「自動更新できると思っていたのに、再契約料が高額だった」というトラブルも多いので、契約前に必ず確認しましょう。


原状回復・更新料・解約予告・設備の修繕責任を明確に

契約書の中で特に揉めやすい条文がこの4つです。

  1. 原状回復
    • 「スケルトン返し」か「居抜き返し」か
    • 「現状復帰」とだけ書かれていないか(曖昧な表現はNG)
    • 内装・什器の扱い、造作残置の可否を別紙で明記する
  2. 更新料
    • 更新料は「新家賃1か月分」が相場ですが、地方では不要な場合も。
    • 更新料だけでなく「更新事務手数料」の名目で別途費用が発生するケースもあります。
  3. 解約予告期間
    • 多くは「6か月前通知」ですが、短い物件では3か月、長い物件では12か月も。
    • 解約予告が遅れると、通知日からの期間分の家賃が発生するため注意。
  4. 設備の修繕責任
    • エアコン・給排水・電気などの設備が故障した場合、どちらが修理費を負担するのか。
    • 「貸主の設備」「借主設置の設備」を明確に区別しておくことが重要です。

✅ 補足

設備トラブル時に「どちらの責任か」で揉めるのは、契約書に“区分がない”ことが原因です。

「共用部」「専有部」それぞれの修繕負担範囲を事前に整理しておきましょう。


指定業者・工事範囲の条項確認

意外に見落とされるのが、貸主指定の工事業者ルールです。

ビルオーナーや管理会社によっては、

  • 指定内装業者の利用義務
  • 電気・ガス工事の施工制限
  • 防火設備工事の届出ルール などが契約条項に明記されています。

指定業者を使うとコストが高くなることもあるため、

自由施工が可能か/追加費用が発生するかを事前に確認しておきましょう。


よくある曖昧条項とトラブル事例

実際に弁護士が現場でよく見るトラブルの一つが、「文言の曖昧さ」です。

【事例】

契約書に「退去時は現状に戻すこと」とのみ記載。

オーナーは“掃除・簡易補修”のつもりでいたが、貸主は“スケルトン戻し”を主張。

結果、数百万円の原状回復工事を負担する羽目に。

こうした曖昧な表現を避けるためには、

  • 「どの範囲を誰が負担するか」を別紙で図解・記録
  • 契約書確認時に第三者(行政書士・弁護士)へ相談
  • 納得できない文言は署名前に修正を求める

契約書を“読む”のではなく“理解する”意識が大切です。


💡 ポイントまとめ

  • 契約形態(定期/普通)を最初に確認
  • 原状回復・更新・解約・修繕の条文を丁寧に読む
  • 貸主指定業者の有無を確認
  • 曖昧表現は写真・別紙で補足
  • 不安があれば専門家にレビューを依頼

次は最終ステップ、「契約金の支払い・引き渡し」。

ここでも油断は禁物です。

契約金の内訳や立会い時のチェックポイントを押さえておきましょう。

ステップ⑥ 契約金の支払い・引き渡し

契約書への署名・捺印が終わると、いよいよ最終段階です。

このステップでは、**契約金の支払いと物件の引き渡し(鍵の受け渡し)**を行います。

ここでも確認不足があると、思わぬ出費やトラブルにつながります。

最後まで気を抜かず、一つひとつ確実にチェックしていきましょう。


契約金内訳:敷金・礼金・保証金・仲介手数料・前家賃

契約金は、単なる「家賃の前払い」ではありません。

以下のように、いくつかの項目が含まれています。

項目概要相場の目安
敷金/保証金退去時に一部または全額が返金される預け金家賃の6〜10か月分(飲食店は高め)
礼金貸主へのお礼として支払う一時金(返金なし)家賃の1〜2か月分
仲介手数料仲介会社に支払う報酬家賃の1か月分(+消費税)
前家賃契約開始月の家賃(先払い)1か月分
保証会社利用料家賃保証サービスを利用する場合年間賃料の50〜100%

契約金の総額は、家賃の10〜12か月分になることもあります。

特に居抜き物件では、これに造作譲渡費(数十万〜数百万円)が加わるケースも。

支払いスケジュールをしっかり把握し、融資実行や資金繰りと連動させておきましょう。


鍵受け渡し時のチェックポイント(メーター確認・残置物)

契約金を支払ったら、いよいよ物件の引き渡し。

このタイミングで「鍵の受け取り」や「メーター確認」を行います。

ここでも油断は禁物です。

✅ チェックポイント

  • 受け取った鍵の本数を確認(スペア・共用部キー含む)
  • 電気・ガス・水道メーターの数値を撮影・記録
  • 残置物(冷蔵庫・什器など)の所有権を確認
  • 壁・床・天井の損傷がないか写真で記録
  • 設備の不具合があれば即時報告(引き渡し後は借主負担になることも)

写真と書面で状態を残しておくことで、退去時の原状回復トラブルを防げます。


保証会社・火災保険の加入手続き

契約時に求められることが多いのが、保証会社と火災保険の加入証明書の提出です。

  • 保証会社:家賃の滞納があった際に貸主へ立替払いする仕組み。 ほとんどの物件で利用が必須になっています。
  • 火災保険(店舗総合保険):火災・漏水・落雷・風災などの被害をカバー。 契約書に「借主負担で加入」と書かれている場合がほとんどです。

また、地震保険や休業補償特約も検討に値します。

特に飲食店は設備損壊が売上停止に直結するため、数万円の保険料でリスクを軽減できるのは大きな安心です。


💡 ワンポイント

契約金の支払いは“初期投資の山場”ですが、同時に信頼関係を築くフェーズでもあります。

「支払い確認が取れました」「本日受領いたしました」など、

仲介会社や貸主と丁寧に連絡を取り合うことで、以後の対応もスムーズになります。


次の章では、契約が完了したあとにやるべき行政手続きや保険準備など、

“開業に向けた動き出し方”を整理していきます。

契約前に必ず確認したい!飲食店物件の5つの注意点

ここまでで契約の流れは理解できたと思います。

次は、契約前に見落とすと後悔する重要ポイントを押さえましょう。

飲食店の物件契約には、一般のテナントとは異なるリスクが潜んでいます。

「飲食店可」の一言を信じてサインしてしまう前に、次の5項目を必ずチェックしてください。


1. 「飲食店可」でも用途地域・設備制限で営業できないことがある

不動産の募集条件に「飲食店可」と書かれていても、すべての業態が許可されているわけではありません。

自治体の「用途地域」や「建物構造」によって、営業できる業態・営業時間が制限されるケースがあります。

たとえば――

  • 第一種住居地域では、深夜営業やバー業態が制限される場合あり。
  • 防火・準防火地域では、内装の素材や防火扉の仕様が義務付けられる。
  • 地下や上層階では、排煙ダクトを外へ出せず「焼き物」「揚げ物」が不可になることも。

✅ 対策

  • 管轄の建築指導課・消防署・保健所に、開業予定業態での営業可否を確認。
  • 「飲食店可」と記載があっても、実際に許可が下りるかを行政窓口で二重チェック。
  • 迷ったら、内装業者や行政書士に図面を見せて相談。

2. 原状回復・解約条項を必ず確認する

原状回復に関する条項は、契約トラブルの代表例です。

「現状復帰」とだけ書かれている契約書は要注意。

どの範囲を“元に戻す”のか、貸主と借主で解釈が異なる場合があります。

退去時に「スケルトン戻しを要求された」「造作を勝手に撤去された」などのケースは後を絶ちません。

✅ 確認ポイント

  • 原状回復の範囲を「壁・床・天井」「設備撤去」など具体的に明記。
  • 解約予告期間(通常3〜6か月)と、違約金の有無を確認。
  • 「保証金償却率」が退去時にどう扱われるかも要チェック。

【事例】

居抜き契約で「現状復帰」とだけ書かれた条文を鵜呑みにした結果、貸主からスケルトン戻しを要求され、500万円近い工事費を負担することになったケースも。

曖昧な条文は「別紙」で取り決めを残すことが重要です。


3. 工事範囲・指定業者ルールを事前に把握

契約前に必ず確認すべきなのが、内装工事に関する制約です。

特にビル物件では、管理会社やオーナーが「指定業者」を決めている場合があります。

  • 電気・ガス・排気工事を特定業者でしか行えない
  • 共用部の配管工事には管理会社の許可が必要
  • 防火・防煙設備は指定図面を提出しなければならない

指定業者の費用が割高な場合もあるため、事前に見積もり比較を取っておくと安心です。

💡 補足

自由に工事ができない物件では、厨房の位置変更やコンセント増設が制限されることも。

内装デザインや動線計画にも影響するため、デザイナーと同席で現場確認を行いましょう。


4. 契約名義と法人設立タイミングのズレに注意

開業準備中によくあるのが、「個人名義で契約してしまった」というミスです。

法人化を予定している場合は、契約時期と登記完了のタイミングを慎重に調整する必要があります。

  • 契約時に法人が未設立 → 個人名義契約になる
  • 法人設立後に名義変更が認められないケースもある
  • 税務処理や経費計上に影響が出る

✅ 対策

  • 契約前に「法人設立予定」であることを仲介会社に伝える
  • 登記完了までの期間を踏まえてスケジュールを逆算
  • 必要に応じて「法人登記後に名義変更可」と契約書へ明記してもらう

5. 立地だけで判断しない!近隣環境・騒音・臭気トラブルも確認

開業後のトラブルで最も多いのが、近隣住民や他テナントとの摩擦です。

どんなに立地が良くても、営業に制限が出ては意味がありません。

  • 上階が住居 → 夜間の営業や音楽が制限される
  • 隣が美容院・オフィス → 匂いや排気へのクレーム
  • 共用廊下・エレベーターでの搬入騒音トラブル

✅ コラム:初期のご近所挨拶がカギ

オープン前に「これから飲食店を始めます」と近隣へ挨拶しておくと、印象がぐっと良くなります。

ゴミの出し方や営業時間などを丁寧に説明しておくことで、クレームを未然に防ぐことができます。


これらの5項目は、どれも契約書を交わす前に必ず確認すべき内容です。

「多少面倒でも、事前確認を怠らない」ことが、結果的にコストを抑え、安定した営業につながります。


次の章では、契約を終えたあとに必要な行政手続きや保険準備など、

「契約後〜開業まで」にやるべきことを整理していきます。

契約後〜開業までにやるべき手続きと準備

契約が無事に終わったら、いよいよ「開業準備」に入ります。

とはいえ、契約書にサインして終わりではありません。

この段階では、行政手続き・工事計画・保険加入などの実務が集中します。

どれも「知らなかった」では済まされない重要なステップばかり。

ここで抜け漏れがあると、オープン日が遅れたり、許可が下りなかったりと大きな損失につながります。


保健所・消防署・警察署への届出を忘れずに

飲食店を営業するには、複数の行政機関への届出が必要です。

契約後、工事に入る前にそれぞれの要件を確認しておきましょう。

手続き先必要な申請・届出主な注意点
保健所飲食店営業許可厨房・手洗い・シンクなどの配置が基準通りであること。設計段階で図面確認を依頼するのが安全。
消防署防火対象物使用開始届/消防設備工事届ガス機器や防火扉など、工事計画に影響。オープン前の立入検査も想定。
警察署深夜酒類提供飲食店営業開始届(22時以降営業の場合)提出後、受理まで10日程度かかる。早めに準備を。

これらの手続きは、工事の進行と並行して進めるのが効率的です。

特に厨房の設計を変更すると再申請が必要になる場合があるため、内装デザイン決定前に保健所へ図面を持ち込んで相談するのが鉄則です。

✅ タイムライン目安(開業3か月前から)

  • 3か月前:行政要件の確認・図面打合せ
  • 2か月前:各種届出書類の作成・提出
  • 1か月前:消防・保健所の検査、営業許可証の取得

店舗保険・損害保険の加入

契約書の多くには「借主は火災保険に加入すること」と明記されています。

火災・漏水・地震・台風など、想定外のリスクに備えるため、開業前に必ず加入手続きを済ませましょう。

特に飲食店では、以下の保険が推奨されます:

  • 店舗総合保険:火災・水害・盗難などの損害を補償
  • 設備・什器保険:冷蔵庫や製氷機、コーヒーマシンなどの高額機器をカバー
  • 休業補償特約:事故や災害で営業できなくなった際の売上損失を補填
  • 賠償責任保険:来客のケガや食中毒など、第三者への賠償リスクを補償

💡 ポイント

  • 管理会社が指定する保険会社があるか事前確認
  • 複数社の見積もりを取り、補償範囲と免責額を比較
  • 保険証券は契約書類と一緒に保管し、更新日を忘れずに

契約書・重要事項説明書の保管・共有

契約関係書類は、「いざ」という時の命綱です。

契約書・重要事項説明書・保証契約書・図面・申請書類などは、紙とデータ両方で保管しておきましょう。

特にチームで開業する場合、書類を共有フォルダ(Google Driveなど)にまとめておくと、

設計士・デザイナー・会計担当者がいつでも確認でき、手戻りが減ります。

✅ 書類管理のコツ

  • 契約書、保証契約書、重要事項説明書はセットで保管
  • ファイル名に日付とバージョンを入れる
  • 共有フォルダには閲覧・編集権限を明確化
  • 契約書の更新や再契約時は、旧データを残したまま保存

💡 まとめ

契約後は“準備段階”というより、開業に向けたスタートラインです。

各種届出・保険加入・書類管理を計画的に進めることで、オープン当日を安心して迎えられます。


次の章では、これまでの内容を整理しながら、

実際の契約時に役立つチェックリストを紹介します。

すぐに使える実務ツールとして、ぜひ保存して活用してください。

契約チェックリスト

ここまでの流れを読んで、「やることが多すぎて不安…」と思った方もいるかもしれません。

そんなときは、このチェックリストを活用してください。

実際の現場で役立つ、最低限おさえておきたいポイントをまとめました。


✅ 物件選定・内見時チェックリスト(排気・電気・騒音など)

□ 立地・環境

  • 商圏・人通り・競合店の状況を確認
  • 昼と夜の人の流れを比較
  • 上階・隣接テナント・近隣住民との距離感をチェック

□ 設備・インフラ

  • 電気容量・ガス圧・排水ルートを確認
  • 排煙ダクトが外部に伸ばせるかを確認
  • グリストラップ設置スペースの有無を確認(保健所基準対応)

□ 内装・構造

  • 居抜き設備の動作確認(冷蔵庫・給湯器など)
  • 厨房・客席の動線に無理がないか
  • 壁・床・天井の素材や防火性能を確認

□ 法的条件

  • 用途地域・防火地域を確認
  • 深夜営業・アルコール提供の可否を自治体に確認

✅ 契約書確認リスト(期間・更新料・原状回復・指定業者)

□ 契約形態

  • 普通借家契約か定期借家契約かを確認
  • 更新料や再契約料の金額・条件を把握

□ 原状回復・解約条件

  • 原状回復範囲が明確に記載されているか
  • 解約予告期間・違約金の有無を確認
  • 保証金・償却の取り扱いを理解しているか

□ 工事・指定業者

  • 貸主指定業者の有無を確認
  • 工事申請手続きやスケジュールを把握
  • 工事範囲・責任分担を文書で明記しているか

□ 保険・保証

  • 保証会社利用の有無と保証料を確認
  • 火災・店舗総合保険に加入済みか

□ 名義・契約主体

  • 法人・個人の契約主体を決定済みか
  • 法人設立予定の場合は、登記時期と連携しているか

✅ 契約後タスクリスト(保険・届出・工事)

□ 行政届出

  • 保健所に飲食店営業許可を申請
  • 消防署へ防火対象物使用開始届を提出
  • 深夜営業や酒類提供を行う場合は警察へ届出

□ 工事・保険

  • 工事スケジュールと保健所検査日を連動
  • 火災・損害保険の加入証を確認
  • 工事前後の写真を撮影して状態を記録

□ 書類管理

  • 契約書・保証契約書・図面・届出書類を電子データ化
  • Google Driveなどで共有・バックアップを完了

💡 まとめ

  • 内見・契約・開業後の3ステップごとに整理しておくと抜け漏れがない。
  • 書面で残す・写真で残す・第三者に見てもらう、この3つがリスク回避の基本。
  • 契約はゴールではなくスタート。準備を整え、安心して開業を迎えましょう。

次の章では、この記事全体のまとめとして、

契約を成功させるための心構えと、押さえておくべき最終ポイントをお伝えします。

まとめ|契約の流れを理解すれば、リスクもチャンスも見える

飲食店の物件契約は、最初の大きなハードルであり、同時にお店づくりのスタートラインでもあります。

一つひとつのステップを理解しておくことで、トラブルを防ぐだけでなく、より良い条件を引き出すチャンスにもつながります。


契約の流れをおさらい

  1. 物件探し:エリア選定と条件整理で失敗を防ぐ
  2. 内見:設備・排気・法的条件を徹底チェック
  3. 申込み:仮押さえと融資のバランスを意識
  4. 条件交渉:家賃・フリーレント・造作譲渡を明確に
  5. 契約書確認:定期or普通契約、原状回復、工事範囲を精査
  6. 契約金・引き渡し:支払い・鍵受け渡し・保険加入を完了
  7. 開業準備:行政届出・保険・書類管理を着実に進める

この流れを押さえておくだけで、契約段階での不安や交渉時の迷いが一気に減ります。


契約は「スピード × 慎重さ」のバランス

良い物件は、迷っているうちに他の人に取られてしまう。

しかし、焦って契約してしまうと、後から高額な修繕費や営業制限に悩まされることもあります。

大切なのは、スピード感を持ちながらも“理解してから決める”姿勢です。

気になる点があれば、遠慮なく仲介会社やオーナーに質問しましょう。

納得できないまま進めないことが、結果的に信頼関係を築く一番の近道です。


専門家に相談するタイミング

不動産契約は法律や建築の知識も関わる領域。

次のような場面では、専門家のサポートを積極的に活用しましょう。

  • 契約書の文言があいまいで不安なとき → 行政書士・弁護士
  • 設備や工事内容に疑問があるとき → 内装業者・設備会社
  • 開業許可・届出の判断に迷うとき → 保健所・消防署・行政窓口

専門家に早めに相談することで、後からの修正コストやトラブルを大きく減らせます。


🍽️ まとめの一言

飲食店の契約は「読む」だけではなく、「理解して判断する」ことが大切です。

準備と確認を丁寧に積み重ねることで、安心して理想の店づくりを始められます。