サードウェーブコーヒーとは?|定義とその背景を解説
サードウェーブとは何か?コーヒー文化の3つの波を知る
サードウェーブコーヒーとは、一言でいえば「コーヒーを単なる飲み物ではなく、“文化”や“体験”として楽しむ」ムーブメントのことです。
この言葉は、2000年代にアメリカのコーヒー業界から生まれましたが、その背景には長いコーヒー文化の変遷があります。
実はコーヒーの歴史は「第一波」「第二波」「第三波」と、大きく3つの時代に分けて語られることが多く、それぞれに特徴があります。
- 第一波(First Wave):インスタントコーヒーや缶コーヒーなど、誰もが安く・簡単に飲めるようになった大量消費時代。
- 第二波(Second Wave):スターバックスなどの登場で、「味」や「空間」にこだわるカフェ文化が広まり始めた時代。
- 第三波(Third Wave):産地や焙煎、抽出技術にまでこだわり、“一杯のコーヒーの背景”に光を当てるムーブメント。
つまりサードウェーブとは、コーヒーを「クラフト」や「アート」として捉え直す動きとも言えるでしょう。
第一波・第二波との違いを比較|大量消費から品質重視へ
サードウェーブをより深く理解するには、第一波・第二波との違いを知っておくのが近道です。以下のように、それぞれの特徴には明確な進化があります。
時代 | 主な特徴 | 代表例 |
---|---|---|
第一波 | 大量生産・低価格・手軽さ | ネスカフェ、UCC缶コーヒーなど |
第二波 | カフェ空間・多様なアレンジ・味重視 | スターバックス、タリーズ |
第三波 | 産地・焙煎・抽出へのこだわり | ブルーボトル、Stumptownなど |
第一波・第二波では「いかに多くの人に届けるか」が重視されていたのに対し、第三波では「いかに深く楽しむか」に焦点が移りました。
品質重視・生産者とのつながり・体験価値の提供——それが、サードウェーブの真髄なのです。
スペシャルティコーヒーとの関係|品質評価と倫理性の軸
サードウェーブを語るうえで欠かせないキーワードが「スペシャルティコーヒー」です。
これは、SCA(スペシャルティコーヒー協会)による厳しい評価基準を満たした高品質なコーヒーのことを指します。具体的には、カッピングスコアが80点以上の豆が該当します。
サードウェーブの多くの店では、このスペシャルティコーヒーのみを扱い、単なる“おいしさ”だけでなく、「どこで、誰が、どんな思いで作ったか」を大切にしています。
生産者への公正な対価(フェアトレードやダイレクトトレード)も重視され、倫理的な消費(エシカル・コーヒー)としての側面も注目されています。
このように、サードウェーブは味だけでなく「透明性」や「物語性」も提供する、新しいコーヒー体験のスタイルなのです。
サードウェーブの歴史|アメリカ発のムーブメントから日本定着まで
サードウェーブの起源|発祥とキーパーソンたち
サードウェーブコーヒーのムーブメントは、2000年代初頭のアメリカ西海岸から始まりました。
この言葉を最初に使ったとされているのが、コーヒー専門誌『Roast Magazine』のトリシュ・スケリーさんです。彼女は「コーヒーの楽しみ方が新たなフェーズに入った」と語り、それが“第三の波”という表現につながったと言われています。
この時期、単なるカフェチェーンとは一線を画す存在が次々と登場します。たとえば、ポートランド発のStumptown Coffee Roastersや、シアトルのEspresso Vivaceなどは、高品質な豆を直接買い付け、浅煎りで豆本来の味わいを引き出すスタイルで注目を集めました。
また、バリスタの地位を高め、抽出技術や器具へのこだわりも重要視されるようになったのもこの頃です。カフェというよりも“コーヒー工房”と呼ぶべき店舗が生まれ始め、第三の波はじわじわと広がりを見せていきます。
世界での広がりと進化|サードウェーブを牽引したブランドたち
アメリカで火がついたサードウェーブは、2010年代に入ると世界中の都市に波及します。
特に大きな転機となったのが、Blue Bottle Coffee(ブルーボトルコーヒー)の急成長です。カリフォルニア州オークランドで誕生したこのブランドは、「注文を受けてから一杯ずつ丁寧に淹れる」スタイルと、スタイリッシュな店舗デザインで多くのファンを獲得しました。
ブルーボトルの特徴は、徹底した品質管理と美意識です。豆の鮮度を保つために焙煎後48時間以内に提供するというこだわりや、バリスタ教育の徹底など、“コーヒーのクラフト化”を象徴する存在として一躍脚光を浴びました。
この流れに乗って、オーストラリアのMarket Lane Coffee、ノルウェーのFuglen、ニュージーランドのCoffee Supremeなども世界中で店舗を展開し、「グローバル×ローカル」なサードウェーブの広がりが加速していきました。
日本への上陸とそのインパクト|ブルーボトル上陸以降の動き
日本でサードウェーブが広く知られるようになったのは、2015年にブルーボトルコーヒーが清澄白河に初出店したタイミングです。
当時、数時間待ちの行列がニュースになるなど、“コーヒーがカルチャーになる”という新たな体験が話題を呼びました。
この上陸をきっかけに、国内のコーヒーシーンも大きく変化します。東京を中心に、Fuglen Tokyo(渋谷)やOnibus Coffee(中目黒)といった高品質志向のロースターカフェが続々と誕生。
それぞれの店舗が豆の個性や空間デザイン、抽出体験にこだわり、まるでギャラリーを訪れるようなコーヒー体験を提供し始めました。
また、スターバックスもこの流れに呼応するように、旗艦店「スターバックス リザーブ® ロースタリー東京」を2019年に中目黒にオープン。コーヒーの“エンタメ化”が進み、サードウェーブは一時的なブームではなく、カルチャーとして日本に根付いたと言えるでしょう。
サードウェーブコーヒーの魅力|5つのキーワードで読み解く本質
サードウェーブコーヒーがこれほどまでに多くの人を惹きつける理由は、「味」だけにとどまりません。
それは、コーヒーにまつわる背景や哲学、体験のすべてに価値を見出しているからです。
ここでは、サードウェーブコーヒーの本質的な魅力を、5つのキーワードから紐解いてみましょう。
① トレーサビリティとダイレクトトレード|透明な仕入れの価値
サードウェーブにおいて最も重要な概念のひとつが「トレーサビリティ」です。
これは、コーヒー豆がどこの国のどの農園で、どんな栽培方法で作られたかを追跡できる仕組みのこと。
それによって、生産者の顔が見え、品質や背景に対する信頼が生まれます。
加えて、多くのロースターが「ダイレクトトレード(直接取引)」を行っています。
これは、仲介業者を通さずに農園と直接契約し、適正な価格で豆を買い付ける仕組み。
生産者への利益還元率が高まり、持続可能なコーヒー産業の形成にもつながっています。
② 焙煎・抽出へのこだわり|職人技が支える一杯の味
サードウェーブでは、「浅煎り(ライトロースト)」が主流です。
これは豆本来の香りや酸味を活かす焙煎スタイルで、フルーツのようなフレーバーや透明感のある味わいを楽しむことができます。
また、抽出に使われる器具もハンドドリップやエアロプレス、ケメックスなど、個性豊かなものばかり。
豆の特性に応じて最適な抽出を行う技術力も、バリスタの腕の見せどころです。
一杯のコーヒーができるまでに、いかに多くの判断と技が詰め込まれているかを感じられるのが、サードウェーブの奥深さなのです。
③ バリスタ文化の尊重|主役は“淹れる人”
サードウェーブでは、バリスタは単なる店員ではなく「クラフトマン」であり、「ストーリーテラー」でもあります。
豆の背景、焙煎の意図、抽出のこだわりなどを丁寧に説明しながら、お客様に“体験”としてのコーヒーを提供します。
こうした姿勢は、バリスタという職業の社会的評価を押し上げ、専門性を持ったプロフェッショナルとしての立場を確立させました。
お店によっては、豆の選定や焙煎にまでバリスタが関わっているケースも多く、まさに“コーヒーを作る人”への敬意が込められている文化です。
④ 空間・デザイン性の追求|“体験”としてのコーヒー
味覚だけでなく、視覚や雰囲気をも重視するのもサードウェーブの特徴です。
無垢材のカウンター、ミニマルなインテリア、職人の動きが見えるオープンな作業スペース——そうした空間設計には「コーヒーと過ごす時間」をデザインする意図があります。
たとえば、ブルーボトルの店舗は「白×木」のシンプルで温かみのある内装が印象的。
居心地の良さと“静かに集中できる空間”のバランスが、多くの人に愛される理由の一つです。
サードウェーブは、五感で楽しむ“ライフスタイルの一部”としてのコーヒー体験を提案しているのです。
⑤ サステナビリティとエシカルな選択|未来志向の消費スタイル
現代の消費者が重視する「サステナビリティ(持続可能性)」の観点からも、サードウェーブは強く支持されています。
地球環境や人権問題に配慮したコーヒー生産を選び取ることは、「自分の選択が世界に与える影響を意識する」という行動につながります。
たとえば、CO2排出を抑えた焙煎方法や、再利用可能なパッケージ素材の導入など、環境負荷を減らす取り組みも積極的に行われています。
サードウェーブは、“おしゃれなカフェ文化”という側面だけでなく、「これからの時代の倫理的な消費」への提案でもあるのです。
実際に体験できる!日本のサードウェーブ系コーヒーショップ
これまでサードウェーブコーヒーの定義や魅力を紹介してきましたが、やはりその本質は「体験してこそ」わかるもの。
ここでは、実際に日本国内でその世界観を味わえる代表的な店舗や、おすすめの都市別スポット、初心者向けの楽しみ方を紹介します。
代表的なブランド紹介(Blue Bottle、Fuglen、Onibusなど)
Blue Bottle Coffee(ブルーボトルコーヒー)
サードウェーブの象徴的存在。日本1号店は2015年、東京・清澄白河にオープン。現在は都内を中心に複数店舗を展開し、店舗ごとに建築デザインや内装にこだわりがあるのも特徴です。どの店も一貫して“クラフトマンシップ”を感じられる体験設計がなされています。
Fuglen Tokyo(フグレン トーキョー)
ノルウェー・オスロ発のブランド。渋谷・代々木公園近くにあるフグレン東京は、北欧家具に囲まれた空間で、浅煎りのシングルオリジンコーヒーが楽しめます。夜はカクテルバーに変わる2面性も魅力。
Onibus Coffee(オニバス コーヒー)
中目黒や奥沢などに展開する人気ロースター。路地裏のようなロケーションに小さな焙煎所を併設した店構えが多く、近隣住民にも観光客にも親しまれています。バリスタの丁寧な接客も印象的。
このほかにも、About Life Coffee Brewers(渋谷)やSwitch Coffee Tokyo(目黒)など、国内にも数多くの個性的なサードウェーブ系店舗があります。
都市別おすすめ店舗ガイド(東京・大阪・福岡 ほか)
東京は、言わずと知れたコーヒー激戦区。
中目黒、清澄白河、表参道、下北沢など、エリアごとに異なる個性を持った店舗が点在しています。歩いて巡れる範囲に数店舗あることも多く、カフェホッピングにも最適です。
大阪では、堀江や中崎町におしゃれなコーヒースタンドが続々と登場。LiLo Coffee RoastersやTakamura Wine & Coffee Roastersなど、ローカル密着型でありながら高い品質を追求する店が増えています。
福岡は、近年コーヒーシーンが急速に成長中。COFFEE COUNTYやREC COFFEEなど、全国から注目される店舗も多く、九州の玄関口として進化を遂げています。
観光と絡めて楽しめるのもサードウェーブの魅力のひとつ。旅先で訪れることで、その街の空気ごと味わえるのです。
初心者におすすめの楽しみ方|注文のコツと店内の楽しみ方
サードウェーブの店に初めて行くと、「ちょっと敷居が高い」と感じる方もいるかもしれません。ですが心配はいりません。多くの店は初心者にも優しく、質問をすれば丁寧に答えてくれるバリスタが揃っています。
おすすめは、シングルオリジンの浅煎り豆をハンドドリップで注文すること。
豆の説明を聞きながら、自分の好みに合う味を探すのも楽しい時間です。
また、店内の空間をじっくり楽しむのもポイント。
インテリアや器具、音楽など、細部にまでこだわりがあるため、五感すべてを使ってコーヒー体験に浸ってみてください。
フォースウェーブは来るのか?|サードウェーブの未来とコーヒー文化の進化
サードウェーブが世界中に定着した今、「次の波=フォースウェーブ」の兆しに注目が集まりはじめています。
果たして次なるムーブメントはどんな形で訪れるのか?ここでは、未来のコーヒー文化の進化と、新たな価値観の萌芽について考えてみましょう。
第4の波とは何か?|テクノロジーとローカルの融合
「フォースウェーブ」という言葉に明確な定義はまだありませんが、多くの専門家や業界関係者が口を揃えるのが、“デジタルテクノロジーとローカル文化の融合”です。
たとえば、スマートロースターやAIによる焙煎分析ツールが登場し、職人の経験に頼っていた焙煎工程を数値化・最適化する技術が進化しています。
また、サブスクリプション型のコーヒー配送サービスや、アプリで淹れ方をナビゲートする“パーソナルバリスタ”のような仕組みも広がりつつあります。
同時に、地元産のコーヒーやその土地の素材と結びついたマイクロロースターの台頭も見逃せません。
より地域に根ざした“小さな波”が、世界各地で同時多発的に起きているのが、まさにフォースウェーブの特徴なのかもしれません。
コーヒーの未来を形作る要素|ロースター・サプライチェーンの次世代化
フォースウェーブを支えるもう一つの柱が、持続可能で透明なサプライチェーンの再設計です。
気候変動による農園の影響、フェアトレードだけでは救いきれない価格変動リスク、農園の高齢化や後継者不足など、課題は山積しています。
そこで、ブロックチェーンを活用して豆のトレーサビリティを強化したり、農園とロースターをつなぐ中間流通の透明化を進めたりといった試みが進んでいます。
サードウェーブで築いた“品質”や“哲学”を、より持続可能で公平な形に進化させていく流れ——それが未来を形作る鍵となるでしょう。
また、ロースターやバリスタ自身が産地訪問を行い、生産者と直接対話するスタイルも定着しつつあります。
この“顔の見える関係性”が、今後の信頼基盤を築くポイントとなっていくはずです。
ユーザーが選ぶ“自分だけの一杯”という価値観の深化
フォースウェーブでは、個人の価値観がより強く反映されるコーヒー体験が主役になっていくと考えられます。
浅煎りが正解、ハンドドリップが正解——といった“理想のスタイル”を押し付けるのではなく、
「今日はどんな気分?」「この味わい、好きかも」といった“気づき”を楽しむプロセスこそが、コーヒーの本当の豊かさにつながるという考え方です。
AIが好みに合った豆をレコメンドする時代が来ても、最後に選ぶのは自分。
それはきっと、「作り手」「売り手」「飲み手」がフラットにつながる、優しいコーヒーの未来なのだと思います。
まとめ|サードウェーブの魅力を知って、自分なりの一杯を楽しもう
サードウェーブコーヒーは、単なるトレンドではなく「一杯のコーヒーにどんな意味を見出すか」という価値観の提案でした。
産地の物語を知り、焙煎や抽出の背景に触れ、空間や人との関係を楽しむ——そんな奥行きある体験が、多くの人を惹きつけ続けています。
サードウェーブを知ることで、コーヒーは「毎朝のルーティン」から「自分と向き合う時間」へと変わります。
専門知識がなくても大丈夫。まずは一杯、バリスタのおすすめを聞いてみるところから始めてみてはいかがでしょうか。
お気に入りの一杯を見つけたとき、きっとあなたのコーヒーの世界も、少しだけ広がっているはずです。