都会の喧騒を離れ、カウンターに腰かけ静かに一杯を待つ。「注文はおまかせで」——この言葉がコーヒーの世界でも、静かな波を起こしています。
「どれにしようかな?」ではなく、「何が出るんだろう?」というワクワクに身を任せる。
それが、今注目される 「コーヒーおまかせ(coffee omakase)」 の核心です。
選ぶ歓びから、任せる贅沢へ。
そして、飲むだけでは終わらない「体験としてのコーヒー」が、カフェ文化を次のフェーズへと駆り立てています。
この記事では、東京・京都・大阪の注目8店舗を通じて、このトレンドがどこに向かっているのかを紐解きます。
なぜ「おまかせコーヒー」が今、脚光を浴びるのか
“選ばせない”ことで生まれる特別感
「メニューに迷う」こと自体がストレスになる時代。特にスペシャルティコーヒーの世界では、豆の産地や抽出法、温度…と選択肢が多彩です。
そこで「バリスタに任せる」選択が登場します。
この“任せる”体験が、プロの設計力を可視化し、「飲む」という行為が「味わう・体験する」へと変化するのです。
店側にとってのビジネス価値
“おまかせ化”には、単価・ブランド・差別化というメリットがあります。
希少豆・限定抽出・体験設計を用意すれば、ただ飲む時間を超えた価値ある時間が生まれます。飲食店・カフェが“体験を設計する”方向へシフトしていることは、世界的にも見られる潮流です。
目が離せない注目8店舗:ハイエンドからカジュアルまで
以下では、「完全コース型のハイエンド体験」と、「カジュアルに楽しめるおまかせ型」の2グループで紹介します。
ハイエンド体験型(完全予約・設計された一杯)
1) Cokuun(表参道/東京)
場所は表参道。たった4席の予約制。創設者は世界バリスタチャンピオン経験者。
“コーヒーを素材として再構築する”というコンセプトのもと、鉄瓶で沸かした水、和菓子とのペアリングなど、茶道に通じる細やかな演出が特徴。
“90分・1人16,500円前後”という報道もあり、コーヒー界の新たな“体験型高級”を牽引しています。
2) KOFFEE MAMEYA -Kakeru-(清澄白河/東京)
“コース料理としてのコーヒー”をテーマに、産地・抽出法・スイーツまで含めた構成。
例えば、冷抽出・フィルター抽出を比較し、その差を体験して味覚を深めさせる設計がなされています。
3) MEL COFFEE(大阪/天満橋)
こちらは“フードペアリングコース”を標榜。複数の抽出×複数皿の料理による、コーヒーと食の交差点を描く試み。
コーヒーを食事体験の一部と捉え、ガストロノミー領域に近付くスタイルです。
4) Lonich(蔵前/東京)
リンク:https://www.instagram.com/lonich_jp/
比較的新しい店舗ながら、“Seasonal Omakase Course”“Gesha Collective Course”など複数のコースを用意。
20種以上のフィルター抽出も用意し、テイスター・愛好家両方に訴求しています。
カジュアル体験・拡張型(ライトに楽しむおまかせ)
5) Blue Bottle Studio Kyoto(京都)
リンク:https://store.bluebottlecoffee.jp/pages/blue_bottle_studio_kyoto
海外展開するブランドが京都で限定展開する“コーヒーコース”。希少豆・5杯+軽菓子という構成で、比較的敷居低めながら体験価値あり。
6) Fuglen Coffee Sanguubashi(参宮橋/東京)
リンク:https://fuglencoffee.jp/en/pages/fuglen-sangubashi
ノルウェー発のカフェが東京で展開。カウンター越しにバリスタと対話しながら「その日そのあなたに合う一杯」を導いてくれる“おまかせ体験”型。予約優先・少席制。
7) KURO MAME TOKYO(神谷町プレイス/東京)
リンク:https://www.instagram.com/kuro_mame_tokyo/
「メニューなし、バリスタが豆を選ぶ」体験型カフェ。ブランドMAMEによる、対話と提案に重きを置いたスタイル。
8) KOME MAME(大阪)
リンク:https://www.instagram.com/kome_mame_osaka/
おにぎり×コーヒーという異端のペアリング。コースというより“何が出るか楽しみ”という感覚が強く、トレンドの広がりを象徴する存在です。
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トレンドの意味と飲食・カフェ文化への示唆
体験を設計する時代へ
これまでコーヒーは「豆を選び」「抽出方法を選び」「自分で味わう」という流れが主でした。
しかし、「バリスタに任せる」ことで、“飲みに行く”から“体験しに行く”へと進化。
この変化は、ワインやクラフトビールでも見られる「語られる飲み物」の潮流と同根です。
単価と差別化の両立
ハイエンド店舗では1人あたり1万円以上の枠を設定、完全予約制という運用になっています。
このような価格設定が可能になる背景には、希少豆・抽出技術・空間設計・ストーリーテリングが備わっていることがあります。
つまり“価値”を見せられるかが鍵です。
普及とライト化の両輪
一方で、Blue Bottle京都やKOME MAMEのように、比較的手が届く範囲で「おまかせ的体験」を提供する動きもあり、トレンドは“高級一辺倒”ではなく、階層構造を作りつつ広がっています。
これにより、「試してみたい」「体験してみたい」という層の受け皿も整ってきています。
今後の展開と注目ポイント
グローバル観光とのシンクロ
訪日外国人観光客の回復とともに、“Japanese-style omakase coffee experience”はインバウンド需要としても期待されます。
「世界初」や「限定数」などの言葉が海外メディアでも取り上げられており、東京・京都の発信力が強みになっています。
混在する“選択と任せる”のバランス
全てを任せる形式が主流になっていくのか、あるいは“いくつか選んで任せる”というハイブリッド型が増えるのか。
例えば、「豆は自分で選び、抽出法は任せる」「料理とのペアリングを任せる」という両立も見えてきます。
LonichやKOME MAMEのように、テーマ性・異素材ペアリングを取り入れる動きもその証です。
サステナビリティとローカル化
希少豆・季節素材・地域文化と組み合わせることで、単なる“贅沢”から“文化価値を含む体験”へと深化しています。
Cokuunでは、茶道的な要素や和菓子とのペアリングが明示されており、コーヒー文化における“日本らしさ”を再構築しています。
まとめ──飲食・コーヒー文化の“次”を味わう一杯へ
コーヒーおまかせは、技術・素材・演出をまとめて「任せる」ことで、飲む人に新たな価値を提供するスタイルです。
ハイエンドとライト体験が併存しつつ拡張している今、コーヒー=「選ぶもの」から「体験するもの」へと変化しつつあります。
これからの新トレンドとしてコーヒーおまかせは根付いて行くのでしょうか。今後も楽しみにウォッチしていきます。
