開業準備でいちばん多いつまずきは、「買い忘れ」「過剰購入」「想定外の出費」です。

とくに備品・消耗品は数が多く、単価は安くても塵も積もれば山となります。

発注のたびに迷い、レイアウト確定後にサイズが合わない――そんな小さな損失が積み重なると、初期費用も運転資金も圧迫します。

本記事では、厨房・ホール・バックヤードの3エリアに分けて必要なものを網羅し、初期費用の目安おすすめ購入先、さらに在庫・コスト管理の実践ノウハウまで具体的に解説します。

実店舗の運営データをベースに、買うべき優先順位や選定基準も提示。

開業前のチェックリストとしてはもちろん、既存店の見直しにも役立つ“保存版”としてご活用ください。

フィットする道具を揃え、ムダな支出を削り、利益の出る店づくりを一緒に進めていきましょう。

まず押さえよう!「備品」と「消耗品」の違い

飲食店を開業・運営するうえで、まず理解しておきたいのが「備品」と「消耗品」の違いです。

この2つを混同してしまうと、経費の計上ミスコスト管理のずれが生じやすくなります。

ここでは、それぞれの特徴と扱い方を整理していきましょう。


備品=長期的に使う“資産”

「備品」とは、長期間にわたって繰り返し使用する、いわばお店の“資産”となるものを指します。

テーブルやイス、冷蔵庫、調理機器、レジ、照明などが代表的です。

一度購入すれば数年単位で使い続けられるため、会計上は固定資産として扱われ、減価償却の対象になります。

耐用年数を意識することで、買い替えの時期や修理費用の目安も立てやすくなります。

また、初期費用を抑えたい場合は、リースや中古備品の活用も有効です。

リース契約であれば月々の支出として計上でき、キャッシュフローを安定化させる効果があります。

一方で、中古備品は購入時の保証や電気容量、搬入経路の確認を怠らないことが大切です。


消耗品=日常的に消費・補充するもの

「消耗品」は、日々の営業で使い切ったり、繰り返し補充したりする短期使用のアイテムを指します。

ペーパー類、ラップ、洗剤、ストロー、マスク、ゴミ袋などがその代表格です。

これらは「資産」ではなく、消耗品費として経費計上されます。

単価は安いものの、在庫ロスや発注ミスが積み重なると、年間で数十万円単位のコスト差が生まれます。

在庫を過剰に抱えれば保管スペースを圧迫し、足りなくなれば営業効率が下がる──。

だからこそ、定期的な在庫チェックと発注サイクルの最適化が重要になります。

さらに最近では、サステナブル素材の消耗品(紙ストローや再生容器など)も増えており、環境負荷を減らしながらブランディングにもつながる選択が可能です。


備品と消耗品を正しく分類し、それぞれの性質を理解しておくことは、経営判断のスピードと精度を高める第一歩です。

次の章では、実際にどんなアイテムが必要になるのか、厨房・ホール・バックヤードの3エリア別に詳しく見ていきましょう。

飲食店の備品・消耗品リスト【エリア別チェックリスト】

開業準備で最初にやるべきは、エリアごとに必要なものを洗い出すことです。

厨房・ホール・バックヤード、それぞれに求められる機能が異なるため、一括でリスト化してしまうと漏れや重複が生まれやすくなります。

ここでは、現場目線で“これだけは欠かせない”アイテムをリストアップ。

さらに、選び方のポイントコストを抑えるコツもあわせて紹介します。


厨房エリア

主な備品

  • 冷蔵庫/冷凍庫/製氷機/コンロ/オーブン/シンク/換気フード
  • 包丁/まな板/ボウル/鍋/トング/計量器具/保存容器

これらは店舗の“心臓部”ともいえるアイテムです。

厨房備品を選ぶときは、清掃性・耐久性・安全性を重視しましょう。

特に注意したいのが「業務用」と「家庭用」の違い。

家庭用の調理器具は初期費用こそ安いものの、連続稼働や高温調理に耐えられず、結果的に買い替えコストが高くつくケースが多いです。

主な消耗品

  • ラップ/アルミホイル/キッチンペーパー/ゴム手袋/洗剤/スポンジ/除菌シート

衛生管理に関わるアイテムが中心です。

食中毒対策やスタッフの安全確保の観点から、消耗品の品質にも投資価値があります。

選び方のポイント

  • 清掃のしやすさ、分解のしやすさをチェック
  • 電力・容量・ガス圧など、物件設備との適合確認を必ず行う
  • 作業動線を意識して、必要なものを“手の届く範囲”に配置

ホール(客席・サービスエリア)

主な備品

  • テーブル・イス/メニュー表/卓上調味料入れ/POSレジ/会計トレイ/照明

ホール備品は、お客様の体験を形づくる“ブランドの顔”です。

素材・色・デザインは、店舗コンセプトと統一感を持たせることで世界観が伝わります。

POSレジやハンディ端末は、会計スピードと注文精度を高める重要アイテムです。

主な消耗品

  • 紙ナプキン/ストロー/コースター/領収書ロール紙/除菌スプレー

見た目や使い心地が、接客印象に直結します。

デザイン入りのコースターや環境配慮型ストローを導入すれば、SNS拡散のきっかけにも。

選び方のポイント

  • 動線を意識した配置(スタッフの回遊性・視認性を確保)
  • テーブル・イスのサイズは「客単価」「回転率」に直結する
  • ブランドイメージを壊さない素材・カラーを選定する

バックヤード・事務エリア

主な備品

  • ロッカー/タイムレコーダー/パソコン/プリンター/金庫/防犯カメラ

スタッフが安心して働ける環境を整える場所です。

最近では、勤怠管理や売上集計をクラウドで一括化できるデジタル備品の導入が主流になっています。

主な消耗品

  • 事務用品/コピー用紙/文具/トイレットペーパー/掃除用品/消臭スプレー

運営の裏側を支える“縁の下の力持ち”。

補充の手間を減らすため、定期配送型の仕入れサービスを活用するのもおすすめです。

選び方のポイント

  • 事務・衛生用品はまとめ買いでコスト削減
  • ロッカーや金庫などは「防火・防犯性能」をチェック
  • 電子化できる部分はできる限り効率化(勤怠・経費精算など)

業態別チェックリスト(カフェ・居酒屋・レストラン)

カフェ

  • エスプレッソマシン/グラインダー/ドリップポット/テイクアウト資材 → 少人数運営を前提に、省スペース・多機能型の機材を選ぶのがポイント。

居酒屋

  • 焼き台/ジョッキ/冷酒グラス/仕切りパーテーション → 回転率を上げるため、軽くて洗いやすい食器・グラスが重宝します。

レストラン

  • ワイングラス/デキャンタ/サービストレー/クロス類 → 高単価客層を意識し、素材・手触り・統一感を最優先に。

初期費用の目安とコスト配分

「備品・消耗品にどれくらいお金がかかるのか?」

これは開業準備の中でもっとも気になるテーマのひとつです。

内装や物件取得費に比べれば金額は小さく見えますが、備品・消耗品は想定外の出費が積み重なりやすい領域

ここを正しく把握しておくことで、資金計画に余裕を持たせることができます。


全体の初期費用構成イメージ

以下は、小規模飲食店(客席10〜20席)を想定した平均的な費用構成です。

費用項目割合目安金額レンジ(小規模店)
物件取得・内装約40〜50%200〜500万円
厨房・ホール備品約20〜30%100〜300万円
消耗品・資材約5〜10%10〜30万円
その他運転資金約20%100〜200万円

開業費用全体のおよそ3割を、備品・消耗品が占めると考えておきましょう。

例えば、冷蔵庫やコンロといった大型機器だけで100万円を超えることも珍しくありません。

また、テーブル・イス・照明など“お店の印象を決める部分”にこだわると、さらにコストがかさみます。

一方で、ペーパー類や洗剤といった日常の消耗品は、開業時に1〜2ヶ月分をまとめて仕入れるのが一般的です。

初期費用の段階では一見小さな金額に見えても、ランニングコストとして毎月積み重なるため、

開業後の運転資金計画にも必ず組み込んでおきましょう。


コストを抑える方法

中古・リユース活用

厨房機器や家具は、中古市場の活用がコストダウンに効果的です。

たとえば「テンポスバスターズ」や「厨房館」など、業務用中古専門店では状態の良い商品が多数出回っています。

新品購入に比べて30〜50%のコスト削減が可能なうえ、保証付きの店舗も増えています。

ただし、サイズや電圧の確認を怠ると“設置できない”トラブルにつながるため、必ず図面と照合しましょう。

リース契約

初期費用を抑えたい場合、リースや分割払いも選択肢に入ります。

月々の支払いに分散できるため、資金繰りの安定化に有効です。

また、リース品は経費計上しやすく、税務上の処理もシンプルになります。

補助金・融資制度の活用

飲食店の開業支援には、「小規模事業者持続化補助金」「創業融資制度」など、備品購入にも使える制度があります。

特に省エネ機器や業務効率化に関わる備品は、補助金の対象になりやすいため要チェックです。

“見た目にこだわる部分”と“コストを抑える部分”を明確に

全体のデザインや雰囲気を左右する照明・家具などは妥協せず、一方で裏方の機材やバックヤード用品は中古やまとめ買いを活用する──。

この「優先度の線引き」が、無理のない初期費用配分を実現します。


備品・消耗品の購入先おすすめルート

必要なものをリストアップしたら、次に考えるべきは「どこで買うか」。

同じ商品でも、購入ルートによって価格・納期・サポート体制は大きく変わります。

ここでは、飲食店オーナーが実際によく利用している3つの仕入れルートを比較しながら、コストと利便性の両面で最適な選択肢を紹介します。


業務用通販サイト(オンライン)

ネット通販は、開業準備中や仕入れ頻度の多い店舗にとって最も効率的なルートです。

価格比較が容易で、在庫の確認や発注履歴管理もオンラインで完結できます。

サイト名特徴向いている店舗
Amazon Business小ロット注文・即日配送対応。請求書払いも可能。小規模店・カフェ
アスクル(ASKUL)文具から清掃用品、厨房消耗品まで幅広く対応。翌日配送が強み。中〜大規模店・多店舗経営
モノタロウ工具・掃除用品・店舗設備などを一括で購入可能。自主管理型店舗

オンライン発注のメリットは、価格の透明性とスピード

繁忙期でも在庫が確保しやすく、領収書発行やポイント還元などの管理面も優れています。

一方で、サイズ感や質感を確認できないデメリットもあるため、家具や装飾品などは実店舗でチェックしたうえで購入するのが安心です。


実店舗で選ぶメリット

家具や照明、インテリア関連の備品は、実際に触れて確認する価値があります。

写真だけでは分からない質感や重量感、空間とのバランスを確かめることで、後悔のない選定が可能です。

おすすめのショップ例:

  • 無印良品:シンプルで耐久性のある什器・収納用品
  • IKEA:デザイン性が高く低コスト。カフェ・ベーカリーに好相性
  • ACTUS:高級感のある家具でレストラン・バー業態に人気

また、ディスプレイ備品や照明器具など、店舗の印象を決める要素は「現物の確認」が重要。

納期やメンテナンス相談も店頭でスムーズに行えるため、開業直前のトラブルを防ぎやすくなります。


中古・リユース・オークション活用

コストを大幅に抑えたい場合は、中古備品の導入も有効です。

状態の良い業務用機器が多く流通しており、耐久性も十分。

代表的な販売店:

ただし中古品は、保証・電源容量・搬入サイズを必ず確認しましょう。

とくに冷蔵庫やオーブンなど大型機器は、設置場所の寸法を図面で照らし合わせておくことが必須です。

中古と新品を組み合わせる“ハイブリッド調達”を行えば、デザイン性・機能性・コストのバランスを最適化できます。


消耗品費を抑える管理・運用ノウハウ

飲食店において、消耗品費は“見えにくい固定費”のひとつです。

1回の仕入れ金額は小さくても、毎月の積み重ねで年間数十万円規模になることもあります。

だからこそ、「使う・買う・管理する」仕組みを整えることが、利益率の改善につながります。

ここでは、今日から実践できる3つのコスト削減テクニックを紹介します。


在庫を「見える化」してロスを防ぐ

まず取り組みたいのが、在庫管理の“見える化”です。

どの消耗品が、いつ・どのくらい消費されているのかを把握することで、無駄な発注や欠品を防げます。

  • Googleスプレッドシートなどで「在庫表」を共有化
  • 発注担当者を固定せず、スタッフ全員が記録できる仕組みを作る
  • 定期発注日を決めて、習慣化する(例:毎週月曜はペーパー類の在庫チェック)

最近では「アスクル」や「Amazon Business」で定期購入設定が可能になっており、在庫切れ防止とコスト安定化を同時に実現できます。


サステナブル素材でコスト・印象を両立

環境配慮とコスト削減は、いまや両立できるテーマです。

たとえば、紙ストローや再生素材容器は単価が高いように見えて、在庫を一元管理しやすく、ロス率の低下につながるケースがあります。

さらに、自治体によってはエコ関連の補助金対象になることもあり、「コスト削減 × ブランド価値向上」の両面でメリットを得られます。

例:

  • 紙ストロー → プラスチックごみ削減でSNS好印象
  • 再生ペーパータオル → 仕入れ価格が安定、発注単価の見直しも容易

小さな取り組みが、お客様の共感やスタッフの意識改革につながる点も見逃せません。


定期仕入れ・サブスクで安定供給

最近増えているのが、消耗品サブスクリプション(定期配送サービス)です。

紙ナプキン、洗剤、トイレットペーパーなど、消費サイクルが一定のものは定期契約が最適。

  • 月単位で決まった数量を自動配送
  • まとめ買いによる単価交渉がしやすい
  • 支出が平準化され、キャッシュフローの見通しが立てやすい

特に多店舗展開や人員交代の多い店舗では、発注の属人化を防ぐ効果もあります。

導入の際は、「ロット数」「納期」「キャンセルポリシー」を確認しておくと安心です。


消耗品の最適化は、単なる節約ではなく、経営のリズムを整えることでもあります。

次の章では、備品・消耗品を「利益改善の仕組み」として捉えるための考え方を紹介します。

備品・消耗品の管理を“利益改善”につなげよう

備品や消耗品は、日々の営業を支える「道具」であると同時に、利益を守る経営資源です。

小さな積み重ねが、1ヶ月後・1年後には大きな数字の差となって表れます。

ここでは、備品・消耗品の管理を“単なる業務”ではなく、利益改善の仕組みに変えるための3ステップを紹介します。


ステップ① 「見える化」― コストの全体像を把握する

まずは、自店の備品・消耗品コストを“見える化”しましょう。

月次の会計で「仕入れ費」「消耗品費」がどのくらいかかっているのか、エリア別(厨房/ホール/バックヤード)に整理してみます。

これにより、「思った以上にペーパー類のコストが高い」「洗剤の使用量が多い」といったムダの発見が容易になります。

経営数字の“感覚的な把握”から、“データに基づく判断”へ移行することが目的です。


ステップ② 「定期化」― チェックの習慣を仕組み化

次に、備品や消耗品の点検・発注を定期タスク化します。

週次や月次で棚卸のタイミングを決め、誰が何を確認するのかを明文化しましょう。

この「ルール化」によって、属人化を防ぎ、担当者が変わっても安定した運用ができます。

GoogleスプレッドシートやNotionなど、クラウドで共有できるツールを活用すれば、リアルタイムで在庫状況を可視化できます。


ステップ③ 「共有化」― チーム全員で意識を統一

最後に、備品・消耗品管理をチーム全体の共通意識として浸透させましょう。

「モノを大切に使う」「ロスを出さない」という意識がスタッフ全体に根付けば、自然と店舗全体のコスト意識も高まります。

朝礼やミーティングで「今月の備品費」や「消耗品削減率」を共有するのもおすすめです。

数字で成果を可視化することで、スタッフのモチベーションも上がります。


備品・消耗品管理は、単なる在庫管理ではありません。

それは、お金と時間を最適化する経営戦略そのものです。

次の章では、本記事のまとめとして、

「備品・消耗品=見えないコスト」への意識をどう変えるべきかを整理します。

まとめ|飲食店経営を支える“見えないコスト”に目を向けよう

飲食店の成功を左右するのは、華やかなメニューや内装だけではありません。

日々の営業を支える「備品」や「消耗品」といった“見えないコスト”こそ、利益を安定させるための重要なファクターです。

開業準備の段階では、リスト化・優先順位付け・コストの見える化を徹底すること。

運営段階では、在庫管理・定期チェック・チーム共有を習慣化すること。

この2つを継続するだけで、年間数十万円単位のコスト改善が可能になります。

また、備品・消耗品の管理は「節約」のためだけではありません。

清潔な店舗環境、効率的なオペレーション、スタッフの働きやすさ――

これらすべてに直結する“経営クオリティ”の指標でもあります。

これを機に、自店舗の備品・消耗品リストを見直し、ムダのない運営=利益の出る仕組みへアップデートしていきましょう。