訪日外国人観光客の増加により、飲食業界でもインバウンド対応が急務となっています。なかでも見落としがちなのが「メニューの翻訳」です。せっかく外国人客が来店しても、メニューが理解できなければ注文できず、満足度も下がってしまいます。
この記事では、飲食店がインバウンド対応の一環として取り組むべき「メニュー翻訳」のポイントについて解説します。ありがちな失敗例や具体的な注意点、外国人にもわかりやすい工夫まで、実践的な情報を網羅しています。正確な翻訳で、お店の魅力をしっかり伝えましょう。
なぜ今、メニューの多言語対応が重要なのか
インバウンド需要の高まりと飲食業界への影響
コロナ禍が明けた今、訪日外国人観光客(インバウンド)は着実に回復傾向にあります。日本政府観光局(JNTO)によると、2024年の訪日外国人旅行者数はコロナ前の水準に迫る勢いで増加しており、飲食業界でもインバウンド対策が再び注目を集めています。
多くの外国人観光客は、食を旅の楽しみの一つと捉えており、日本の飲食店に対する期待も高まっています。そんな中、メニューが日本語しかなければ、来店後の体験価値を大きく損なうことになります。逆に言えば、多言語対応を整えることで「外国人に選ばれる店」へと一歩近づけるのです。
メニュー翻訳が店舗の印象を左右する理由
飲食店にとって、メニューは単なる注文表ではなく「お店の顔」とも言える存在です。そこに誤訳や不自然な表現があれば、客の信頼を損ない、料理そのものの魅力も半減してしまいます。
たとえば「親子丼」が「Parent-and-child rice bowl」と直訳されていたり、「納豆」が「fermented beans(発酵した豆)」と説明されていたりすると、思わぬ誤解を招くことがあります。外国人観光客にとっては、料理のイメージが湧かないどころか、食欲を削ぐ要因にもなりかねません。
逆に、正確で丁寧な翻訳がなされていれば、料理内容を理解したうえで注文でき、満足度も高まります。ひいては、口コミやSNSでの評価アップにもつながるのです。
メニュー翻訳でありがちな失敗とそのリスク
メニューを翻訳する際、多くの飲食店が陥りがちな落とし穴があります。それは「翻訳すること」自体が目的化してしまい、結果として不自然で伝わらない表現になってしまうことです。この章では、実際によく見られる失敗例と、それがもたらすリスクについて掘り下げていきます。
直訳による誤解や文化的タブー
もっともありがちな失敗は、「日本語をそのまま英語や他言語に直訳してしまう」ことです。一見正しそうに思える直訳でも、文化や背景が異なる外国人には伝わらなかったり、誤解を招いたりすることがあります。
たとえば、「生姜焼き定食」を“Ginger Grilled Set Meal”とした場合、日本人にはおなじみの響きでも、外国人にとっては「ジンジャーがどのように使われているのか?」「セット内容とは何か?」など、疑問が残ります。また、「定食」を“set meal”と表現する場合も、海外ではあまり一般的な概念ではないため、補足説明が必要です。
さらに注意したいのが、宗教的・文化的なタブーに触れてしまうケースです。豚肉や牛肉、アルコールを使った料理などは、イスラム教徒やヒンドゥー教徒にとって避けるべき食材であることもあります。こうした情報を明記していないと、トラブルのもとになりかねません。
翻訳アプリ任せの落とし穴
近年はGoogle翻訳などの無料翻訳ツールを活用する飲食店も増えていますが、これにも大きな注意が必要です。自動翻訳はあくまで直訳をベースにした機械的な処理であり、ニュアンスや文化的背景までは考慮されません。
実際、「たこ焼き」を“Octopus Balls”と訳す例は有名ですが、この表現は英語話者にとって非常に誤解を招くものです(ball=睾丸という意味にも取られるため)。本来であれば“Octopus Dumplings”や“Battered Octopus Snacks”など、食べ物としてのイメージが伝わる表現が適切です。
翻訳アプリを完全に頼ってしまうと、笑われるだけでなく、店舗の信用を失うことにもつながります。外国語に不慣れでも、最低限の監修やチェック体制を整えることが不可欠です。
正確な翻訳のために気をつけたい5つのポイント
インバウンド対応におけるメニュー翻訳は、単に言語を変換するだけでは不十分です。料理の魅力や安全性を的確に伝えるためには、いくつかの重要な配慮が必要です。このセクションでは、飲食店が実践できる具体的な翻訳のポイントを5つご紹介します。
料理名は“説明型”にする
外国人にとって日本の料理名は、聞き慣れないものばかりです。たとえば「唐揚げ」や「もつ煮込み」といった料理名をそのまま英語表記しても、意味は伝わりません。
そこで有効なのが、「料理名+簡単な説明」の“説明型”にすることです。
例:
- Karaage (Japanese-style deep-fried chicken)
- Motsu Nikomi (Stewed pork offal with miso)
このように、日本語名をローマ字表記で残しつつ、料理の内容を一文で説明するスタイルは、料理の雰囲気を保ちながらも理解しやすくなるため非常に効果的です。
食材やアレルゲン情報の明記
外国人観光客の中には、アレルギーや宗教上の理由で避けたい食材がある人も多くいます。メニューに主要な食材やアレルゲン情報を明記しておくことで、安心して注文してもらえます。
たとえば、以下のような表記を加えると親切です:
- Contains: wheat, soy, eggs
- This dish includes pork (for those who avoid it)
とくに、エビ、カニ、ナッツ、小麦、乳製品、卵などは世界的にアレルゲンとして注意が必要な食材です。すべての料理に一貫したルールで表示するようにしましょう。
ユニークな日本文化表現は補足説明を添える
日本特有の食文化や慣習が背景にあるメニューには、補足説明があると外国人にとって親切です。たとえば、「おせち料理」「どんぶり」「つけ麺」など、日本人には当たり前の概念でも、海外ではほとんど知られていません。
例:
- Donburi (rice bowl dish with toppings such as beef, tempura, or sashimi)
- Osechi (traditional New Year’s meal served in multi-tiered boxes)
こうした補足を加えることで、文化への理解を深めつつ、料理に対する興味や信頼感も高めることができます。
プロの翻訳者やネイティブのチェックを活用
正確な表現や自然な言い回しを実現するためには、やはりプロの翻訳者やネイティブスピーカーの協力が欠かせません。とくに英語、中国語、韓国語などは来日観光客の数が多く、翻訳の質が集客に直結します。
一度、専門家による翻訳とネイティブチェックを通すだけでも、メニューの信頼性と魅力が格段にアップします。また、翻訳だけでなく、「外国人が読んでどう感じるか」という観点でのレビューも大切です。
言語ごとの表記ルールに合わせる
日本語の感覚をそのまま持ち込むと、英語など他言語では不自然になることもあります。たとえば、英語圏では「料理名→素材→味つけ→サイズ」など、記述の順番や単語の選び方に一定の傾向があります。
また、表記の統一も重要です。たとえば以下のようなケースでは、表記ブレを避けましょう。
- “fried chicken”と“deep-fried chicken”が混在している
- 単位が“g”と“grams”で揺れている
こうした細かな配慮が、全体のプロフェッショナル感を左右します。
翻訳だけじゃない!外国人に優しいメニューの工夫
正確な翻訳はインバウンド対応において重要な要素ですが、言語以外にも「わかりやすさ」や「視覚的な配慮」が求められます。とくに初めて訪れる外国人にとっては、視覚情報が判断材料となることが多いため、メニュー自体のデザインや構成にも工夫が必要です。
ここでは、外国人観光客にとって親切なメニュー作成のための実践的なポイントを紹介します。
写真やピクトグラムの活用
言葉の壁を超えて料理のイメージを伝える最も効果的な手段が「写真」です。すべての料理に写真を載せるのが理想ですが、少なくとも人気メニューや代表料理には高品質な写真を添えるようにしましょう。
さらに、アレルゲン情報や食材、ベジタリアン・ヴィーガン対応、辛さレベルなどは「ピクトグラム(絵文字やアイコン)」で表記することで、言語を問わず直感的に理解してもらえます。
例:
- 🥬:ベジタリアン対応
- 🌶️:辛口
- 🥜:ナッツ含む
- ❌🍖:肉不使用
これらのシンボルをメニュー内で統一して使用することで、視覚的にとてもわかりやすい印象を与えます。
価格や注文方法の明示
海外では「価格がはっきりしない」ことを不安に感じる人が多いため、価格表示は明確かつわかりやすくすることが重要です。たとえば、消費税やサービス料の有無を明記しておくと、トラブルの予防にもつながります。
さらに、注文方法に関する説明も必要に応じて添えておくと親切です。日本独自のシステム(食券制、セルフサービス、水はセルフ、など)は、外国人にとって戸惑いやすいポイントです。短い説明文を加えるか、店内の案内と併せてメニューにも補足があると、安心感につながります。
例:
- “Please pay at the vending machine before ordering.”
- “Water is self-service. Please help yourself.”
このようなひと工夫が、外国人観光客に「また来たい」と思わせるホスピタリティにつながります。
多言語対応を支援するツールやサービス紹介
インバウンド対応を強化するためには、信頼性の高い翻訳と使いやすいツールの導入が不可欠です。ここでは、実績があり、飲食店のニーズに応える多言語メニュー作成支援サービスを厳選してご紹介します。
EAT東京
EAT東京(多言語メニュー作成支援ウェブサイト)は、東京都が運営する無料のメニュー翻訳サービスです。東京都に住所を置き、「飲食店営業」または「喫茶店営業」の営業許可を受けた事業者であれば、専用Webサイトから誰でも簡単に多言語メニューを作成できます。
対応言語は英語・中国語・韓国語など12言語。約120種類のデザインテンプレートを活用でき、翻訳の精度も非常に高いため、自然な表現で外国人に伝わるメニュー作成が可能です。
さらに、東京都が運営する「外国語メニューがある飲食店検索サイト」への無料掲載も可能で、店舗情報やクーポン内容も自動で12言語に翻訳されます。費用をかけずに集客・販促まで対応できる、都内飲食店にとって非常に魅力的なサービスです。
翻訳サービス.jp
翻訳サービス.jpは、飲食店メニュー専門の有料翻訳サービスです。日本食文化に精通したネイティブスタッフがダブルチェックを行い、外国人観光客にわかりやすく自然な翻訳を提供します。
対応言語は英語・中国語(簡体字・繁体字)・韓国語・タイ語・ベトナム語・インドネシア語・フランス語・スペイン語(南米向け)の8言語。メニュー翻訳はもちろん、看板やWebサイトなどの翻訳にも対応可能です。
高品質かつ安心感のある翻訳を求める店舗におすすめのサービスです。
▶︎ https://honyaku-service.jp/
観光・インバウンド翻訳サービス(翻訳会社FUKUDAI)
翻訳会社FUKUDAIが提供する「観光・インバウンド翻訳サービス」は、創業20年以上の実績を持ち、観光・飲食分野に精通した専門翻訳者が多数在籍しています。
原稿の内容に応じて最適な翻訳者がアサインされ、品質の高い翻訳をスピーディかつ低コストで提供可能です。中国語・英語をはじめ、韓国語・タイ語・ベトナム語・インドネシア語など幅広い言語に対応し、料理メニューのほか、パンフレットやWebページなども一括で依頼できます。
NAIway翻訳サービス
NAIway翻訳サービスは、25年以上の歴史を持つ多言語翻訳会社で、飲食店メニュー翻訳における豊富な実績を誇ります。大手チェーン店から個人経営の店舗まで、規模を問わず対応可能です。
経験豊かな専門翻訳者とネイティブチェッカーの二重体制により、言語の自然さと正確さを両立。英語・中国語・韓国語に加え、タイ語・ベトナム語・フランス語・アラビア語など30カ国以上の言語に対応しています。高精度な翻訳を求める店舗にとって、安心して任せられる選択肢です。
これらのサービスは、飲食店の多言語対応を支援し、インバウンド需要の取り込みに貢献します。店舗の規模やニーズに合わせて、最適なサービスを選択してください。
まとめ:正確な翻訳でインバウンド需要をチャンスに変える
訪日外国人観光客が増加する中で、飲食店にとってメニューの多言語対応は「おもてなし」の第一歩です。誤訳や直訳による失敗は、せっかくの来店チャンスを台無しにしてしまう可能性があります。
本記事では、翻訳時に注意すべきポイントとして、料理名の説明型翻訳やアレルゲン情報の明記、文化的背景への配慮などを紹介しました。さらに、言語以外にも写真やピクトグラムの活用、注文方法の説明といった、外国人に優しい工夫が求められます。
また、翻訳の質を担保するためには、プロの翻訳者や多言語対応ツールの導入が有効です。EAT東京やSmartMenu、FlavorJapanなどの信頼性の高いサービスを活用することで、スムーズな運用が可能になります。
「伝える努力」は「選ばれる理由」になります。正確な翻訳と丁寧な配慮を積み重ねることで、インバウンドの波を確かなチャンスへと変えていきましょう。