飲食店の衛生管理で見落とされがちなのが「グリストラップ」です。
普段は意識しにくい設備ですが、油脂や生ゴミが溜まる場所であり、放置すると悪臭や詰まり、害虫発生といった深刻なトラブルにつながります。
近年は自治体のチェックも厳しく、管理不足で指導を受ける店舗も増えています。
本記事では、グリストラップの仕組みや法的な位置づけ、清掃頻度、自分でできる手入れの方法、業者に依頼すべき判断基準までをわかりやすく解説します。
グリストラップとは？｜飲食店で必須とされる理由と法的な位置づけ
グリストラップの定義
グリストラップは、厨房排水に含まれる油脂や食べかすを下水へ流さないための設備です。
油脂分離槽とも呼ばれ、飲食店で起きやすい排水トラブルを防ぐ役割があります。
家庭よりも油や残渣が多く発生するため、飲食店では特に重要です。
3槽構造（第一槽／第二槽／第三槽）
一般的なグリストラップは三つの槽で構成されています。
第一槽は大きな残渣を受け止める部分です。
第二槽では油脂が浮上し、ここに溜まっていきます。
第三槽では比較的きれいになった排水のみが下水に流れます。
段階ごとに油と残渣を確実に分離できる仕組みです。
法律上の扱い（下水道法・水質汚濁防止法）
法律で設置が明確に義務づけられているわけではありません。
しかし下水道法や水質汚濁防止法では、油脂をそのまま排水することが禁止されています。
そのため、飲食店では事実上「必須の設備」として扱われています。
自治体条例での設置義務
自治体によっては、条例で設置や清掃を求めている地域があります。
東京都や政令市では基準が細かく、未設置で指導を受けるケースもあります。
床面積420㎡以上の基準と例外
床面積420㎡以上の施設には設置が求められる明確な基準があります。
ただし、面積が小さくても油の多い業態では実質的に必須です。
飲食店でグリストラップが必要な理由｜放置した場合のリアルなリスク
悪臭・つまり・害虫
グリストラップを放置すると、まず悪臭が発生します。
油脂や生ゴミが腐敗し、厨房だけでなく客席まで臭いが広がることもあります。
排水管には油が固着し、水の流れが悪化し、最終的には完全な詰まりにつながります。
汚れを好むコバエなどの害虫が増える可能性も高まります。
油脂ブロックによる排水トラブル
油脂が固まると“油脂ブロック”となり、排水をせき止めます。
逆流して床が水浸しになる被害も珍しくありません。
固まった油脂は手作業では取れず、業者対応になるケースが多く、費用もかさみます。
行政指導・営業停止のリスク
油脂を多く含む排水の流出は法律や条例で禁止されています。
悪臭や汚水が原因で行政指導を受ける例も増えており、改善されない場合は営業停止になることもあります。
損害賠償につながるトラブル事例
排水が詰まり、近隣テナントに漏水すると損害賠償の対象になります。
自店だけでなく、周囲に被害を及ぼすため、管理を怠るリスクは非常に大きいと言えます。
どれくらい汚れる？｜FOGの溜まり方と業態別の違い
FOG（油脂）の蓄積メカニズム
飲食店の排水には、調理で使う油、スープの脂、皿洗いで流れる食べカスが混ざっています。
これらは「FOG（Fat・Oil・Grease）」と呼ばれ、時間が経つと冷えて固まり、槽や排水管に付着します。
油を多く使う店舗では、数日で厚い油膜ができることもあります。
業態別の違い（中華・揚げ物・焼肉・カフェ）
中華や揚げ物店は油の使用量が多く、FOGが特に溜まりやすい業態です。
焼肉店は脂やタレが流れ込み、ヘドロ状の汚れが増える傾向があります。
カフェは油こそ少ないものの、ミルクや甘味ソースが固まりやすく、意外と汚れが進みます。
店舗規模・提供数による変化
店舗が大きいほど排水量が増え、FOGの蓄積も早くなります。
繁忙期は提供数が増えるため、普段より汚れが加速する場合もあります。
業態だけで判断せず、店舗ごとの実態に合わせて清掃サイクルを調整することが大切です。
清掃頻度｜店舗別・槽ごとの適切なサイクル
第一槽：毎日が基本
第一槽は食べカスが最も溜まりやすい場所です。
ここが詰まると全体の排水が悪くなるため、バスケットの残渣は毎日取り除く必要があります。
日々の清掃が悪臭や害虫発生の予防にもつながります。
第二槽：2〜3日に1回の油脂除去
第二槽には油脂が浮いて溜まりやすく、数日で油膜が厚くなります。
固まる前に取り除くことが大切で、油吸着シートを使うと短時間で処理できます。
第三槽：週1〜月1のヘドロチェック
第三槽は比較的きれいですが、底にはヘドロが蓄積します。
週1回の確認と、月1回のしっかりした清掃で、トラブルを防ぐことができます。
大型店：月1〜3回の業者清掃
客数が多い店では汚れの進行が早く、自力だけでは対応が難しいことがあります。
月1〜3回、専門業者の清掃を組み合わせると安心です。
臭い・詰まりのサイン
排水の流れが遅い、強い臭いがする、油が厚く固まっている――。
こうしたサインが出たら、清掃頻度の見直しが必要です。
自分でできるグリストラップ清掃｜手順・道具・注意点
準備する道具
清掃には、ゴム手袋、マスク、バケツ、スコップ、油吸着シート、ネット袋などを用意します。
汚れが強い場合は、ヘドロをすくう小型の柄杓やブラシがあると作業がスムーズです。
第一槽の清掃
第一槽は食べカスが最も溜まりやすく、毎日の対応が基本です。
バスケットを取り出し、残渣をネット袋にまとめます。
槽の縁やバスケット周りの汚れも軽くこすって落としておくと、詰まりの予防になります。
第二槽の油脂除去
第二槽には油脂が浮き、数日で膜が厚くなります。
油吸着シートを浮かべて回収すると、手軽に油を取り除けます。
新聞紙を使う方法もありますが、破れやすいため扱いに注意が必要です。
第三槽のヘドロ除去
第三槽の底には、油脂と汚れが混ざったヘドロが沈殿します。
スコップや柄杓ですくって回収し、バケツに分けて処理します。
ヘドロの放置は臭いや排水不良につながるため、月1回を目安にしっかり清掃しましょう。
NG行為（薬剤過多・熱湯など）
強力な薬剤を大量に入れたり、熱湯を流し込んだりするのは危険です。
配管を傷めたり、別の場所で油脂が固まる原因になります。
産業廃棄物としての処理ルール
回収した油脂やヘドロは一般ゴミとしては捨てられません。
産業廃棄物に該当するため、自治体のルールに沿って処理し、必要に応じて許可業者に依頼します。
業者に依頼すべきケース｜費用相場・作業内容・選び方
自力で対応できる範囲と限界
残渣の除去や油膜取りは自分たちでも可能ですが、油脂が固まって槽の底に貼り付くと手作業では落とせません。
排水が極端に遅い、臭いが強い、油脂が固形化している状態は、業者に依頼すべきサインです。
業者の作業内容
業者はバキューム車で汚泥を吸引し、高圧洗浄で槽や配管の奥についた油脂を徹底的に落とします。
自力では届かない部分まできれいになるため、排水トラブルの予防に効果的です。
料金相場（小規模〜大型店）
小規模店で1〜3万円、大型店や重度の汚れでは3〜7万円が目安です。
定期契約を利用すると単発より安くなる場合があります。
悪徳業者の見分け方
極端に安い見積もりや、作業内容を曖昧にする業者は注意が必要です。
産廃処理の許可番号を提示しているかも確認しましょう。
セルフ vs 業者
日常はセルフで十分ですが、根本清掃は業者でしか対応できません。
「セルフ＋月1〜3回の業者清掃」が最も安心です。
管理をラクにする方法｜最新ツール・効率化アイテム
油吸着シート
第二槽に浮かべるだけで油膜を取り除けるアイテムです。
油脂の固着を防ぎ、日常清掃の負担を大きく減らせます。
自動油分離装置
油脂を自動で分離・排出する装置で、手作業の清掃頻度を大幅に減らせます。
初期費用はかかりますが、トラブル防止に効果的です。
IoT管理
油脂量や汚れをセンサーで可視化し、スマホで確認できるサービスもあります。
清掃のタイミングが判断しやすくなります。
補助金の可能性
小規模事業者持続化補助金などを活用すれば、導入費の負担を抑えられる場合があります。
飲食店のグリストラップ管理に関するFAQ
清掃しないとどうなる？
悪臭・排水詰まり・害虫発生が起こりやすくなり、最悪の場合は営業停止につながります。
臭いを取る方法は？
まずは残渣と油脂をしっかり除去し、第三槽のヘドロを取り除くことが効果的です。
槽の縁やふた周りの清掃も臭い対策に役立ちます。
薬剤は使える？
強力な薬剤は配管を傷める可能性があるため、使用は最小限にしましょう。
基本は手作業と吸着材での除去が安全です。
自治体の点検頻度は？
地域によりますが、飲食店の排水管理は自治体のチェック対象です。
悪臭や苦情があると指導が入る場合もあります。
業者とセルフ、どちらがコスパ良い？
日常清掃はセルフで十分ですが、重度の汚れは業者が確実です。
「日常はセルフ＋月1〜3回の業者」がもっとも効率的です。
まとめ｜グリストラップは“衛生・売上・店舗評価”を守る設備
グリストラップは、飲食店の排水トラブルや悪臭、害虫発生を防ぐために欠かせない設備です。
日常のチェックと定期清掃を習慣化することで、営業への影響を最小限に抑えられます。
店舗の規模や業態に合わせた管理を行い、必要に応じて専門業者の力も活用しましょう。
適切なメンテナンスは、お客様の信頼や店舗評価にも直結します。