飲食店を開業するとき、誰もが最初に気になるのが「坪単価はいくらかかるのか?」ということです。

同じ10坪の店舗でも、立地や業態、内装デザインによって数百万円単位の差が生まれるのが現実。

「渋谷と郊外でどれくらい違う?」「カフェと居酒屋ではどのくらい費用が変わる?」──そんな疑問を持つ方は多いはずです。

実は、坪単価は単なる“面積あたりの費用”ではなく、投資回収や利益率を左右する重要な経営指標でもあります。

この記事では、坪単価の定義・全国と東京の相場・費用内訳・業態別の基準・コスト最適化のコツまで、飲食店経営のプロの視点で徹底解説します。

これを読めば、あなたの理想の店舗を実現するために「どれくらい投資すべきか」「どこを抑えるべきか」が、数字で見えてくるはずです。


坪単価とは?|飲食店開業における基本の考え方

飲食店の開業準備を進めるうえで、まず押さえておきたいのが「坪単価」という概念です。

この言葉はよく聞くものの、実際に「何を指しているのか」を正確に理解している人は意外と多くありません。


坪単価の意味と計算方法

「坪単価」とは、1坪(約3.3㎡)あたりにかかる建築・内装コストを指します。

例えば10坪の店舗で総工費が1,000万円なら、坪単価は「100万円/坪」という計算になります。

計算式: 坪単価 = 総工費 ÷ 坪数

この指標は、開業費用を見積もる際の“ものさし”のようなもの。

坪単価が高いほど、同じ広さでも工事や設備、デザインに多くのコストをかけているということになります。


「家賃坪単価」と「工事坪単価」は別物

注意したいのは、「坪単価」には2つの意味があることです。

ひとつは家賃坪単価(家賃を坪数で割ったもの)、もうひとつは工事坪単価(内装・設備などの施工費を坪数で割ったもの)。

混同してしまうと、「思っていたより費用が高い」「開業資金が足りない」といったトラブルのもとになります。

店舗運営を考える際は、初期投資の坪単価(工事+設備)とランニングコストとしての家賃坪単価を明確に分けて把握しましょう。


坪単価を理解することの重要性

坪単価を知ることは、単に「費用感を掴む」ためだけではありません。

それは、売上計画や投資回収の見通しを立てるための基礎データでもあります。

開業時の失敗で多いのが、「見た目にこだわりすぎて初期費用が膨らむ」ケース。

しかし、坪単価の平均や構成を理解しておけば、どこにお金をかけ、どこを抑えるべきかを冷静に判断できます。

つまり、坪単価の知識は“お金のセンス”を磨く第一歩です。

この後の章では、全国・東京の最新相場とともに、その目安を具体的に見ていきましょう。


飲食店の坪単価の平均相場【全国・東京エリア別】

坪単価を理解したら、次に気になるのは「実際の相場はいくらなのか」という点です。

ここでは、全国的な平均から、特に競争が激しい東京23区エリアの最新データまで、リアルな金額目安を見ていきましょう。


全国平均の坪単価相場

全国的に見ると、飲食店の坪単価は物件の状態によって大きく変わります。

  • スケルトン物件(何もない状態):80〜150万円/坪
  • 居抜き物件(前店舗の造作や設備が残っている状態):40〜80万円/坪

同じ坪数でも、スケルトン物件は内装・電気・水道工事をゼロから行うため高額になります。

一方、居抜き物件は既存の設備や配管を活かせるため、コストを半分以下に抑えられるケースも少なくありません。

ただし、居抜きの場合はレイアウトの自由度が下がるというデメリットも。

「低コスト重視」か「理想のデザイン重視」か、目的に応じて選択することが重要です。


東京23区エリア別の坪単価目安

東京都内は、全国の中でも特に坪単価が高い地域です。

下の表は、主要エリアの平均的な工事坪単価の目安です。

エリア坪単価相場特徴
渋谷・新宿120〜200万円若者中心・デザイン重視で施工費が高い
恵比寿・中目黒100〜180万円狭小高級エリア。内装デザインにこだわる店舗が多い
浅草・上野80〜140万円観光地型。厨房設備や排気ダクトの設置コストが高い
立川・中野60〜100万円家賃・工事費ともに比較的抑えやすい郊外エリア

東京の中心部では、坪単価120万円を超えるケースが一般的です。

この価格帯には、内装デザイン料、厨房設備、電気・給排水工事、そして保証金などの初期費用がすべて含まれます。


家賃坪単価との関係

東京都内では、家賃相場も坪単価に直結します。

たとえば渋谷駅周辺では家賃坪単価5〜7万円、郊外では2〜3万円と、立地だけで年間数百万円の差が出ます。

開業前の資金計画を立てる際は、

「坪単価=家賃+内装費+設備費」

という合計値を基準に見積もるのがポイントです。

坪単価を“全体コスト”として捉えることで、予算オーバーや資金ショートを防ぐ精度が高まります。


坪単価の内訳を分解!費用構成を理解しよう

同じ坪単価でも、「何にどれだけお金を使っているのか」を理解していないと、コストの最適化はできません。

ここでは、飲食店の坪単価を構成する主な費用項目と、その内訳をわかりやすく整理します。


坪単価の主な構成要素

費用項目目安(坪単価の割合)内容
内装工事費約30〜40%壁・床・天井などの造作、デザイン・仕上げ工事
厨房設備費約20〜30%冷蔵庫・コンロ・フライヤーなど業態に応じた設備
家賃・保証金約20〜30%契約時に6〜12ヶ月分を前払いするケースも多い
その他(設計費・看板・申請費)約10〜20%設計士への報酬、保健所申請、サイン工事など

内装工事費:デザインと導線のバランスが命

内装費は坪単価の中で最も比率が大きく、お店の雰囲気やブランド価値を左右する部分です。

特に東京のような競合の多いエリアでは、デザインへの投資が集客力に直結することもあります。

ただし、見た目だけにお金をかけすぎると、投資回収が難しくなるリスクも。

通路幅・席間・厨房動線などの“機能美”にもしっかり目を向けましょう。


厨房設備費:業態で大きく変わる費用項目

厨房は飲食店の心臓部。

ここにどれだけ設備投資をするかで、坪単価は大きく変わります。

たとえば、

  • カフェ:約50万円/坪
  • 居酒屋:約80万円/坪
  • 焼肉店:約120万円/坪

と、業態ごとに2倍以上の差が出ることもあります。

特に焼肉や鉄板焼などは排煙・ガス・防火設備が必要で、コストが跳ね上がりやすい傾向です。


家賃・保証金:初期費用で見落としがちな大きな負担

家賃も坪単価を押し上げる要因のひとつです。

特に東京中心部では、保証金(敷金)として家賃の6〜12ヶ月分を預ける必要があります。

この保証金は契約終了時に返金されるものの、開業時には大きなキャッシュアウトとなるため注意が必要です。

「坪単価が思ったより高い…」というケースの多くは、家賃や保証金を見込んでいないことが原因です。


その他の費用:地味だけど意外と大きい

看板、メニューサイン、保健所申請費、電気容量の追加工事など、細かい費用も積み重なると数十万円単位になります。

これらの「雑費」を見落とすと、実際の坪単価が見積もりより10〜20万円高くなることも。


スケルトンと居抜き、どちらが得?

  • スケルトン物件はコストが高い分、自分好みの設計・デザインができる
  • 居抜き物件は内装や配管を流用でき、初期費用を30〜50%抑えられることも。

ただし、居抜きの場合は「既存レイアウトの制限」や「老朽化設備の交換」などのリスクもあります。

選ぶ際は、“どれだけ活かせるか”を冷静に判断しましょう。


業態別に見る坪単価の基準と特徴【カフェ・居酒屋・焼肉・レストラン】

同じ広さの店舗でも、どんな業態を選ぶかによって坪単価は大きく変わります。

厨房の規模、必要な設備、内装デザインの方向性──すべてがコストに直結するためです。

ここでは、主要な4業態の特徴と費用目安を比較しながら、それぞれの“坪単価の考え方”を整理していきましょう。


業態別・坪単価の目安一覧

業態坪単価目安特徴
カフェ・バー60〜120万円軽厨房・内装デザイン重視・少席数でも成立
居酒屋・和食店80〜150万円厨房が広く、動線設計が収益性を左右
焼肉・鉄板焼100〜200万円排煙・ガス・ダクト設備でコスト高騰
フレンチ・高級業態120〜250万円内装・厨房ともに最上級。空間体験への投資が中心

カフェ・バー:デザインと世界観で勝負

カフェやバー業態は、デザインの完成度が集客力に直結します。

特に東京では「内装映え」や「雰囲気づくり」にこだわる店舗が多く、

照明・家具・素材選びにしっかり投資するケースが目立ちます。

ただし厨房は軽装備で済むため、全体の坪単価は比較的抑えやすいのが特徴。

10坪前後なら600〜1,000万円程度で開業できるケースもあります。


居酒屋・和食店:厨房と回転率のバランス

居酒屋や和食店は、厨房スペースが広く、火力・排水設備などの工事費がかかります。

その分、坪単価はやや高めの80〜150万円/坪が目安です。

ただし、席数を確保しやすく回転率も高いため、投資回収スピードは比較的早い業態

設計段階で「厨房:客席=4:6」のバランスを意識すると、効率的な運営につながります。


焼肉・鉄板焼:高単価の代償は高コスト

焼肉や鉄板焼などの“熱源業態”は、排煙ダクト・ガス・防火工事の費用が重くのしかかります。

また、テーブルごとに排煙フードを設置する必要があり、坪単価100〜200万円に達することも。

しかし一方で、客単価が高く、原価率も比較的コントロールしやすいため、

長期的に見れば高収益業態として安定しやすいのも事実です。


フレンチ・高級業態:空間そのものがブランド

フレンチレストランやオーセンティックバーなど、

「空間体験」に価値を置く業態は坪単価120〜250万円が目安。

照明・音響・素材など細部までデザインが行き届くため、

初期費用はかかりますが、ブランド力と顧客単価の高さで投資を回収する設計が求められます。


坪単価の決め手は「客単価×回転率」

最終的に、業態ごとの坪単価は想定する客単価と回転率によって妥当性が決まります。

単価が高い店は坪単価も高くて当然。

反対に、低単価業態では「コストをかけすぎない」判断が利益を守る鍵になります。


坪単価から見る投資回収シミュレーション

ここまでで、坪単価の定義や相場、業態別の特徴を整理してきました。

次に重要なのは、「その投資をどれくらいで回収できるのか?」という視点です。

単に“安く作る”のではなく、投資と売上のバランスを設計することが、成功する店舗経営の鍵になります。


投資と売上のバランス(FLR比率)

飲食店の経営では、「FLR比率」という考え方がよく使われます。

これは、F=原価(Food)/L=人件費(Labor)/R=家賃(Rent)を足したもので、

この合計が売上に対してどれだけの割合を占めるかを示す指標です。

理想的なFLR比率は60〜70%以内

つまり、売上の30〜40%が利益・その他経費・投資回収に回せる状態が望ましいということです。

坪単価が高ければ、その分「R(家賃)」と「初期投資」が重くなるため、

高単価メニューや回転率アップによる売上向上でバランスを取る必要があります。

逆に、坪単価を抑えた店舗は固定費が軽いため、

利益率を確保しやすいが、売上の伸びしろが小さいという側面もあります。


モデルケース:10坪カフェの回収シミュレーション

ここで、実際に数値で考えてみましょう。

以下は、都内に10坪のカフェを開業したケースです。

項目内容
開業費(坪単価100万円 × 10坪)約1,000万円
月商約100万円(1日客数40人 × 客単価800円 × 30日)
営業利益率約10〜15%
月間営業利益約10〜15万円
回収期間約7〜9年

このように、坪単価が高くなるほど回収期間が長期化します。

特に家賃や内装費に偏った投資は、日々のキャッシュフローを圧迫するリスクも。

したがって、開業時には「回収可能な期間内で収まるか」を必ず試算しておきましょう。


投資設計の考え方:3つのポイント

  1. 年商の30〜50%以内を初期投資に抑える 一般的には、開業費(坪単価×坪数)は年商の半分以下が理想。
  2. 家賃は月商の10%以内に設定する 高家賃エリアでは、売上単価を上げられる設計にする。
  3. 利益率の高いメニュー構成を意識する ドリンク・デザート・ランチセットなど、原価率の低い商品で利益を積み上げる。

バランス設計こそが「坪単価の正解」

坪単価は「高い=悪い」ではなく、「高い分の売上が見込めるか」で判断する指標です。

たとえば、坪単価150万円の高級レストランでも、月商300万円を超えるなら投資効率は悪くありません。

重要なのは、投資額・家賃・売上・回収期間を一体で設計すること

これができる経営者ほど、安定して利益を生み出しています。


コストを抑える3つのポイント【失敗しない坪単価の判断基準】

ここまでで、坪単価の相場や回収シミュレーションの考え方が見えてきました。

最後に、無理のない投資で理想の店舗をつくるための“コスト最適化のコツ”を紹介します。

同じ10坪でも、工夫次第で数百万円の差が生まれることもあります。


① 居抜き物件を活用する

開業コストを抑えるうえで、最も効果的なのが居抜き物件の活用です。

前の店舗の内装や設備を再利用できるため、スケルトンに比べて30〜50%のコスト削減が可能です。

例えば、スケルトンで1,000万円かかる工事を、居抜きなら500〜700万円に抑えられるケースも。

特に配管やダクト、厨房の配置がそのまま使える場合は大きな節約になります。

ただし注意したいのは、残置設備の状態と契約条件

「使えると思っていた設備が故障していた」「譲渡金が想定より高かった」などのトラブルも起こりやすいため、

内見時は必ず専門業者や施工会社に同行してもらうことをおすすめします。


② 中古・リース機器を上手に使う

新しい厨房機器は高額ですが、中古やリースを活用すれば初期投資を半減できます。

製氷機、冷蔵庫、コンロ、フライヤーなどは、中古市場でも良質な機器が多く流通しています。

また、リース契約を利用すれば、開業時のキャッシュフローを圧迫せずに機器を導入できます。

とくに創業初期は「固定資産を持たない軽い経営体制」を意識するのも重要です。

👉 例:

新品で100万円のエスプレッソマシン → リースなら月1.5万円〜2万円程度で導入可能。


③ 補助金・融資を活用する

国や自治体の補助金・融資制度を活用するのも効果的です。

たとえば、

これらを組み合わせることで、実質的な自己負担を半分以下に抑えることも可能です。

特に「厨房機器」「内装工事」「販促物」など、明確な費用区分があれば採択されやすい傾向にあります。

申請には事業計画書が必要ですが、専門家や商工会議所のサポートを受けるとスムーズです。


💡 施工会社選びは“最後の節約ポイント”

同じ工事内容でも、施工会社によって見積もりが10〜30万円/坪も変わることがあります。

3社以上から相見積もりを取り、仕様・工期・アフター対応まで比較検討するのが鉄則です。

また、「飲食店専門の内装会社」を選ぶと、保健所や消防法の基準を熟知しており、

後から追加費用が発生しにくいというメリットもあります。


まとめ|坪単価の「正解」は業態×立地×戦略で決まる

坪単価の数字だけを見て、「高い」「安い」と判断するのは危険です。

なぜなら、その金額が自店の戦略に合っているかどうかが、成功を分けるからです。

渋谷の10坪カフェも、郊外の30坪居酒屋も、立地・業態・客単価・回転率が異なれば、

“最適な坪単価”もまったく違ってきます。

大切なのは、「どんな顧客をターゲットに」「どのくらいの売上を狙うか」を明確にし、

その戦略にふさわしい投資バランスを設計することです。

坪単価を理解すれば、資金計画・デザイン・オペレーションまで、

すべてを数字でコントロールできるようになります。

開業の第一歩は、“自分にとっての坪単価の基準”を持つことから始まります。


✅ 本記事のポイントまとめ

  • 坪単価とは「1坪あたりの内装・設備費」。家賃とは別物。
  • 東京の平均坪単価は約120万円。スケルトンと居抜きで大きな差が出る。
  • 業態別では、焼肉・高級業態が最も高く、カフェ・バーは比較的低コスト。
  • FLR比率を意識して、投資と売上のバランスを設計する。
  • 居抜き物件・補助金・リースなどを活用すれば、初期費用を半減できる。
  • 坪単価の“正解”は、業態×立地×戦略によって変わる。

飲食店経営は数字の積み重ねです。

坪単価という“現実的な指標”を理解することで、

あなたの理想の店舗が、無理のない形で形づくられていくはずです。