Z世代とは?飲食店が知っておくべき価値観と消費行動
Z世代の定義|1990年代後半〜2010年頃生まれ
Z世代(ジェネレーションZ)とは、一般的に1990年代後半から2010年頃までに生まれた世代を指します。ミレニアル世代の次にあたるこの層は、幼少期からスマートフォンやSNSに囲まれて育った“デジタルネイティブ”であることが最大の特徴です。
飲食店経営者にとって、Z世代は「これからの主要顧客層」として重要な存在です。学生から社会人初期の年齢層である彼らは、友人との外食やデート、SNS発信を通じて飲食体験の影響力を高めています。
また、彼らの行動パターンは従来世代とは異なり、「価値観でお店を選ぶ」という傾向が強く見られます。単なる“おいしさ”や“価格”だけではない、背景や姿勢に共感できるかどうかが判断基準になるのです。
共感・参加・推し活——Z世代ならではの価値観
Z世代は“消費”を単なるモノの交換と考えていません。むしろ、自分が支持するブランドや世界観に“参加”する感覚を重視します。たとえば、コンセプトが明確なカフェや、ストーリー性のあるラーメン店が人気を集めるのはそのためです。
また、近年よく耳にする「推し活」もZ世代の特徴のひとつ。好きなアイドルやキャラクターを“推す”ように、「このお店を応援したい」と思わせる感情設計が鍵となります。
さらに、「みんなで同じ体験をする」よりも、「自分だけの特別な体験」に価値を置く傾向も見逃せません。そういった“共感+個人主義”のバランス感覚が、Z世代の価値観の根幹を成しています。
「タイパ」と「エモ消費」が意思決定に与える影響
Z世代を語るうえで欠かせないキーワードが、「タイパ(タイムパフォーマンス)」と「エモ消費」です。
タイパとは、「限られた時間でどれだけ満足できるか」という効率重視の考え方。たとえば、長時間並ばずに注文できる仕組みや、1杯で2つ以上の価値を感じられるドリンクなど、“体験密度”の高さが飲食店選びの基準となります。
一方、エモ消費とは「感情が動いた瞬間」にお金を使うスタイル。つまり、「この店、ストーリーが素敵」「この料理、世界観がエモい」と思ってもらえれば、価格以上の価値を感じてくれるのです。
このように、Z世代の消費行動は単なる“理性”や“損得”では語れません。感情と効率のバランス感覚を満たすお店こそが、Z世代に選ばれる飲食店と言えるでしょう。
Z世代はどうやって飲食店を探しているのか?SNS活用と探し方の実態
Z世代の主流はSNS検索|Instagram・TikTokが主戦場
Z世代が飲食店を探す際、グルメサイトよりもSNSを使うのが当たり前になっています。中でも特に利用率が高いのが、InstagramとTikTokです。
Instagramでは、ビジュアル重視の世界観や「#○○カフェ」「#渋谷ランチ」といったハッシュタグ検索が定番です。飲食店の投稿だけでなく、一般ユーザーのレビューや写真を通して「リアルな体験」を重視する傾向が見られます。
一方TikTokでは、短尺動画を通して「雰囲気」「音」「動き」まで直感的に伝えることが可能。料理のシズル感やユニークな提供方法が動画で拡散されれば、一気に「バズる」ことも珍しくありません。
つまり、Z世代にとってSNSは「情報検索のツール」であると同時に、「体験共有のプラットフォーム」でもあるのです。
ハッシュタグ・発見タブ・UGCの使われ方
Z世代はSNSを「眺める」だけではなく、自ら検索し、掘り下げる使い方をしています。代表的なのが以下の機能です。
- ハッシュタグ検索:「#中目黒グルメ」「#抹茶スイーツ」など、場所+目的型が人気
- 発見タブ(Instagram):フォロー外のコンテンツから“偶然の出会い”を求める
- UGC(ユーザー生成コンテンツ):一般ユーザーの投稿を信頼の指標にする
特にUGCは、企業公式の投稿よりも「リアルで信頼できる」と見なされがちです。店内で写真や動画を撮りたくなる導線設計や仕掛けが、Z世代の自発的な発信を生み、集客の連鎖につながります。
Googleマップ・YouTube・インフルエンサーの影響力も無視できない
SNSが主流とはいえ、Googleマップのレビューや写真もZ世代にとっては重要な判断材料です。特に「今すぐ行きたい」タイミングでは、マップの★評価や料理の写真、混雑状況の確認が重視されます。
また、YouTubeでのルームツアー風な飲食店紹介や、実際に訪れたVlogも影響力があります。長尺で丁寧に紹介されていると「安心感」や「親近感」が生まれやすいのが特徴です。
さらに、インフルエンサー(特にマイクロインフルエンサー)による来店投稿は、「この人が行ってるなら間違いない」という共感型の信頼形成につながります。
Z世代の飲食店探しは、多面的かつ感覚的。
だからこそ、一方向的な発信ではなく、いかに“共創的な情報流通”を生むかが鍵となります。
Z世代に刺さる飲食店の5つの特徴|「映え」だけじゃない!
写真や動画で映える料理と内装
まずZ世代を惹きつけるうえで欠かせないのが、“ビジュアル”です。
InstagramやTikTokで共有される前提で、「カメラ越しにどう見えるか」が非常に重要になります。
例えば、カラフルなドリンク、ユニークな盛り付け、奥行きのある店内照明などは、Z世代にとって「撮りたい」「投稿したい」動機につながります。最近では「ネオン×無機質」「韓国っぽ」な世界観がトレンドです。
ただし、単なる“映え狙い”ではすぐに飽きられます。SNSで一度注目されることと、“また行きたい”と思われることは別問題です。大事なのは、ビジュアルと体験価値が一致していること。中身が伴ってこそ、本当のファンが生まれます。
「共感」できるストーリーや世界観設計
Z世代は、表面的な魅力よりも「背景」や「ストーリー」に心を動かされます。なぜこの店をやっているのか、どんな想いが込められているのか。そういった情報がSNSやウェブで伝わっているかどうかが、来店動機につながります。
例えば、「地元の食材にこだわる理由」「店主が○○をきっかけに開業した物語」「環境問題への想い」など、“人”や“思い”が感じられる店舗は、共感を得やすいのです。
Z世代は、商品ではなく“世界観”にお金を使います。
だからこそ、「この店の一部になりたい」と感じられるようなストーリーブランディングが求められます。
「推し活」やシェアを誘発する参加型体験
Z世代は、飲食を「コンテンツ」として楽しむ世代でもあります。ただ食べて帰るのではなく、店内のフォトスポットで撮影したり、食べ比べイベントに参加したりと、“参加する体験”が記憶に残るのです。
特に注目されているのが、推し活に対応した設計。たとえば、「推しカラーのドリンクが選べる」「チェキ付きメニュー」など、“推す人”に寄り添う店舗は自然とZ世代の間でシェアされていきます。
さらに、「#○○チャレンジ」などの参加型キャンペーンや、コラボイベントも有効。体験をSNSで共有したくなる仕掛けを持つことで、集客コストをかけずに話題性を生み出せます。
「タイパ」重視のスマートな導線設計
Z世代は「時間を無駄にしたくない」という強い意識を持っています。そのため、オーダーや支払いのスムーズさ、滞在時間の最適化が重要視されます。
たとえば、モバイルオーダーやセルフ会計、事前予約で待ち時間をカットできる仕組みなどは、「タイパ重視」のZ世代から好評価を得ています。
また、メニューのわかりやすさ、席配置の快適さ、接客のテンポ感なども無意識に評価されています。提供時間が長すぎる、説明が冗長、といったことはネガティブ印象につながりやすいので注意が必要です。
サステナブルな姿勢や社会性も選ばれる理由に
Z世代は「社会的意義」に対する感度が高い世代でもあります。環境配慮やフェアトレード、プラスチック削減など、サステナビリティへの取り組みがあるかどうかは、来店の動機にもなりうるのです。
もちろん、過剰にアピールする必要はありません。しかし、「食品ロス削減メニューを始めました」などの小さなアクションでも共感を呼ぶ可能性が高いです。
重要なのは、ブランディングの一部として自然に取り入れ、共感と信頼を育てる姿勢を見せること。Z世代は、表面的なアピールを見抜く目を持っています。
Z世代集客に効く!SNS時代の飲食店マーケティング戦略
Instagram:リール&ストーリーズで世界観を魅せる
Z世代にとってInstagramは、単なる写真共有アプリではなく、ライフスタイルと価値観を発信する“自己表現の場”です。飲食店が活用する際には、「世界観の統一」が何よりも大切です。
おすすめは、リール(短尺動画)とストーリーズの積極活用。リールでは、料理の調理風景や店舗の雰囲気をテンポよく紹介し、視覚的に魅せるのが効果的です。ストーリーズは、限定メニューや裏話、スタッフ紹介など“日常の断片”を発信することで、親近感を与えられます。
さらに、「〇〇カフェの日常」「今日の推しメニュー」といったシリーズ型の投稿は、ファンとの継続的な接点を築くきっかけになります。
TikTok:短尺動画でバズを狙う、裏側・スタッフ紹介がカギ
TikTokでは、テンポの良さ・ユーモア・素の表情が求められます。
プロモーション感の強い動画よりも、“リアルで飾らない日常”や“ちょっとした面白さ”が、Z世代に刺さりやすいのです。
たとえば、
- キッチンの裏側を紹介する「#厨房の裏側シリーズ」
- 店員同士のやりとりや仕込み風景
- おすすめメニューの“1分食レポ”
といった“顔の見える運用”が、フォロワーの信頼を育みます。
また、Z世代は「この店、TikTokで見たことある!」というきっかけで来店することも多いため、拡散力のある音源やトレンドに乗る柔軟さも必要です。
YouTube・X(旧Twitter)もブランドづくりに有効
一見、Z世代と距離があるように思えるYouTubeやX(旧Twitter)ですが、実は“深掘りしたいとき”に使われるメディアとして根強い支持を得ています。
YouTubeでは、以下のようなコンテンツが効果的です。
- 店舗オープンの舞台裏ドキュメント
- シェフやバリスタの想いを語るインタビュー
- メニュー開発の過程紹介
一方、Xではリアルタイム性と情報の即時性が武器になります。「今日の限定メニュー」「予約の空き状況」「天候による営業情報」など、速報性の高い発信が集客を後押しします。
Z世代は情報を「横断的に取得」する傾向があるため、複数のSNSを組み合わせて発信する“オムニチャネル設計”が望ましいです。
UGCを生むための「撮りたくなる仕掛け」
Z世代の来店動機の多くは、「SNSで見た」「誰かが行ってた」という“二次発信”に由来します。その発信の源泉となるのがUGC(ユーザー生成コンテンツ)です。
UGCを生むには、「撮りたくなる設計」が不可欠です。たとえば、
- 写真映えする盛り付けやカラフルなドリンク
- 店内のネオンサインや鏡張りの壁
- 「#○○といえばこの店」と紐づくユニークな演出
など、“投稿せずにはいられない理由”をつくることがポイントです。
さらに、「UGC投稿した人にドリンク1杯サービス」などの仕掛けを加えることで、発信の後押しをすることも可能です。
マイクロインフルエンサーとのコラボで信頼性を高める
フォロワー数が数千〜1万人程度のマイクロインフルエンサーは、Z世代にとって「距離感の近い信頼できる存在」です。著名な芸能人よりも、“自分と価値観が近い人”が紹介するお店に行きたいという心理が働きます。
そのため、「フォロワーと価値観の一致している人」を選び、店舗体験と自然な投稿をお願いするのが有効です。案件色が強すぎるとZ世代は冷めてしまうため、あくまで“体験の延長”として依頼するのがコツです。
また、来店したインフルエンサーをそのまま店舗の「ブランドアンバサダー」として起用し、継続的な発信につなげることも有効な手法です。
成功事例に学ぶ|Z世代を惹きつけた飲食店のリアルな工夫
Z世代の心を動かすためには、「体験」「共感」「発信したくなる仕掛け」が揃っていることが欠かせません。ここでは、実際にZ世代から支持を集めている国内飲食店3店舗の工夫を紹介します。業態も立地も異なりますが、いずれも“Z世代視点”で設計されたユニークな戦略と発信方法が光ります。
<事例①:体験×世界観で「映えと没入」を叶える|くら寿司 原宿店
原宿の中心に位置する「くら寿司 原宿店」は、Z世代の“遊び心”と“没入体験欲求”を満たす仕掛けが満載の空間です。
この店舗の最大の特徴は、原宿という土地性に合わせて設計された“原宿KAWAII”をテーマにした世界観。回転寿司でありながら、
- ハローキティやポムポムプリンなど人気キャラとコラボしたオリジナル空間
- フォトスポット化したカウンター席
- 提供される寿司皿にQRコードをかざすと出現するARコンテンツ
といった“体験型コンテンツ”が揃っており、ただ食べるだけでなく「遊びに行く場所」として機能しています。
Z世代は「推し活」や「ストーリー性」に敏感な層。くら寿司原宿店はまさに、“回転寿司×キャラクター×没入型体験”という新しい接点を創り出しています。
事例②:「このままでは潰れる」赤字店を救ったのはTikTok|PLUCK AND PLANT(池尻大橋)
池尻大橋にある「PLUCK AND PLANT」は、かつて月商40万円に満たない深刻な赤字状態にありました。
「このままでは潰れる」。そんな危機感の中で始めたのが、TikTokでの“顔出し発信”と“リアルな日常の共有”です。
最初はInstagram中心の発信でしたが、反応は乏しく、何をどう発信すれば来店につながるか分からない状況。そこからTikTokに切り替えたことで、
- 「潰れかけのカフェ、今日のお客さんは3人でした」など、赤裸々な営業報告
- 看板スイーツの仕込み風景を見せるドキュメント型投稿
- スタッフの素顔や失敗談など、“人間味”ある動画
が共感を呼び、2ヶ月で月商が6倍に急増。予約が埋まる人気店へと生まれ変わりました。
Z世代は、編集された広告的コンテンツよりも、“リアルな葛藤や等身大の努力”に心を動かされる傾向があります。PLUCK AND PLANTの成功は、自分たちの言葉で語る勇気と、それを続けた持続力の勝利です。
事例③:人の魅力×リアルな日常感で惹きつける|焼き鳥どん(荻窪)
東京・荻窪の「焼き鳥どん」は、スタッフの個性と店の空気感そのものを“コンテンツ化”して発信するというユニークなブランディングで注目されています。
この店では、Z世代のアルバイトスタッフが主体となってSNSを運用。具体的には、
- 「今日のまかない」「新人紹介」などのリール投稿
- スタッフが踊ったりふざけたりするカジュアルなTikTok動画
- 常連とのゆるいやり取りを映したストーリーズ
など、“飾らない日常感”をそのまま届けるスタイルがZ世代に刺さっています。
大きな仕掛けがなくても、「ここに行けば誰かに会える」「雰囲気が良さそう」と思わせられるSNS発信は、まさにZ世代が求める居場所型の飲食体験です。
「味よりも人」。焼き鳥どんのように、“共感”と“接触”を軸にした発信が、Z世代のリピート率を高める鍵となります。
これらの事例に共通しているのは、一方的に売り込むのではなく、“一緒に物語をつくる”という発信スタイルです。
Z世代は、「見る」「買う」よりも、「参加する」「推す」ことに価値を見出しています。店舗側がその“余白”をつくることで、ファンは自然と集まり、熱量のあるコミュニティが育っていくのです。
まとめ|Z世代とともに飲食店の未来を創るために
「Z世代を知ることは、未来の顧客と向き合うこと」
Z世代は、今まさに「主力顧客層」へと成長しつつあります。
そして彼らは、従来の“集客施策”だけでは動きません。
彼らが求めているのは、共感・体験・参加・自己表現の場です。
これまでの「売る」「来させる」ではなく、「一緒につくる」「推したくなる」店づくりへとパラダイムが変わっています。
つまり、Z世代と向き合うということは、飲食店の未来の在り方そのものを見直すことにほかなりません。
明日からできるアクション:SNS整備・世界観設計・UGC導線
「Z世代向けの取り組み」と聞くと、難しく聞こえるかもしれません。
しかし、明日からでも取り組めるアクションはたくさんあります。
- Instagram・TikTokのアカウントを整備し、世界観を明確に打ち出す
- 店内に“撮りたくなる”スポットをつくる
- ハッシュタグやUGC投稿を促す小さな仕掛けを設ける
- スタッフが自然体で登場する日常感あるコンテンツを投稿する
特別な予算や設備がなくても、“共感されるお店”にはなれるのです。
今後さらに注目すべき動き(例:AI活用、バーチャル空間での飲食体験)
Z世代が牽引する飲食トレンドは、今後もさらに進化していくでしょう。
特に注目したいのが、AIを活用したパーソナライズ体験や、バーチャル空間での接客・予約体験といった“次世代型UX”です。
たとえば、
- おすすめメニューの自動提案
- アバター接客
- メタバース上での店舗内覧や先行体験
など、リアルとデジタルを行き来する“飲食の新しいかたち”が、Z世代の感性と相性抜群です。
今はまだ未来の話でも、こうした潮流を早めにキャッチしておくことが、次なる差別化に直結します。