飲食店を経営するうえで、「人件費」は避けて通れない大きなコストのひとつです。人件費を適正に管理できるかどうかは、利益率に直結し、店舗の長期的な成長を左右します。

では、どうすれば無駄なコストを抑えつつ、従業員のモチベーションを保ち、安定した営業を続けられるのでしょうか? この記事では、飲食店の人件費を適正化するための計算方法と、実践的な対策を詳しく解説します。

人件費を見直すことで、利益率が改善されるだけでなく、働きやすい職場環境が整い、結果としてサービスの質も向上します。経営者やマネージャーの方は、ぜひ参考にしてみてください。

飲食店の人件費の基本を理解する

人件費を適正に管理するためには、まず「人件費とは何か?」を正しく理解する必要があります。何となく「人件費が高い」「もう少し削りたい」と考えるのではなく、正確な計算方法と適正な基準を把握することが重要です。

人件費とは? – 定義と内訳

飲食店における人件費は、大きく分けて次の3つの要素で構成されます。

  1. 基本給・時給:社員やアルバイトに支払う固定の給与や時給
  2. 社会保険料・福利厚生費:健康保険、厚生年金、労災保険、雇用保険などの負担分
  3. 賞与・手当・残業代:インセンティブや深夜手当、休日出勤手当など

一見、時給や月給だけを見て人件費を考えがちですが、社会保険や各種手当も含めると、実際の負担はそれ以上になります。特に、正社員を多く抱えている飲食店では、これらのコストが経営に大きな影響を与えます。

飲食業界の人件費率の目安(業態別の比較)

人件費率とは、売上に対する人件費の割合を示す数値です。飲食業界では、業態によって適正な人件費率の目安が異なります。

業態人件費率の目安
ファストフード・テイクアウト20〜25%
カフェ・カジュアルダイニング25〜35%
居酒屋・レストラン30〜40%
高級レストラン35〜50%

例えば、ファストフード業態では業務がシンプルで回転率が高いため、人件費率は比較的低めになります。一方で、高級レストランなどは手厚いサービスが求められるため、人件費率は高くなりがちです。

なぜ人件費が高騰するのか?主な原因

飲食店の人件費が膨らむ理由はいくつかあります。代表的なものを挙げてみましょう。

採用難による時給の上昇:特に都市部では人手不足が深刻化し、時給相場が年々上がっている。

非効率なシフト管理:無駄な人員配置が発生し、必要以上にコストがかかる。

労働生産性の低下:スタッフ一人ひとりの仕事量が少なく、売上に見合った働きができていない。

長時間労働と残業代の増加:ピーク時の人手不足を補うために、社員が長時間労働を強いられ、結果的にコストが膨らむ。

こうした問題を放置すると、利益率の低下だけでなく、従業員の負担が増え、離職率の上昇にもつながります。次の章では、実際に人件費を計算する方法について詳しく解説します。

飲食店の人件費を計算する方法

人件費の適正化を目指すなら、まず正確な計算ができることが大前提です。感覚的に「高い」「低い」と判断するのではなく、具体的な数字を用いて分析し、現状を把握することが重要です。ここでは、基本的な人件費の計算方法と、その活用方法について解説します。

人件費率の計算式(売上に対する比率)

人件費が適正かどうかを判断するために、まず「人件費率」を求めてみましょう。計算式は以下の通りです。

人件費率(%)=(人件費総額 ÷ 売上高)× 100

例えば、月の売上が 500万円 で、人件費総額が 150万円 だった場合:

150万円 ÷ 500万円 × 100 = 30%

この場合、人件費率は 30% となり、一般的なレストランの基準内に収まっています。しかし、売上が落ちた場合や、無駄な人員配置が続けば、人件費率は簡単に上昇してしまいます。

人件費の適正ラインとは?

業態ごとに適正な人件費率は異なりますが、一般的には 25〜35% が目安とされています。ただし、これはあくまで指標であり、経営方針や立地条件によって適正値は変わります。

例えば、

客単価が高い業態(高級レストランなど)は、人件費率が高めでも利益が確保できる。

回転率が高い業態(ファストフードやテイクアウト店)は、低い人件費率でも十分な収益が出る。

重要なのは、「自店の売上構造と人件費バランスを理解すること」です。

労働生産性の計算方法(売上・時間当たりの生産性)

人件費率だけでなく、「スタッフ一人ひとりがどれだけ売上を生み出しているか」を測ることも大切です。そのためには、労働生産性 を計算します。

労働生産性(円)= 売上高 ÷ 総労働時間

例えば、売上が 500万円 で、スタッフの総労働時間が 1000時間 だった場合:

500万円 ÷ 1000時間 = 5000円/時間

つまり、1時間あたり 5000円 の売上を生み出していることになります。この数値が低ければ、業務の効率化やスタッフ教育が必要かもしれません。

人件費シミュレーションの実践方法

実際に人件費を適正化するためには、シミュレーションを行い、最適な人員配置を検討する必要があります。

例えば、現在の人件費が高すぎる場合:

• ピーク時間帯に合わせて人員を増減し、無駄な人件費を削減する。

• 売上が低い時間帯は、最小限のスタッフで回せる仕組みを作る。

逆に、人手不足で売上が伸び悩んでいる場合:

• 売上につながる業務に人員を集中させる。

• 注文・会計のデジタル化(セルフオーダーシステム導入など)を検討する。

数値を基に考えることで、より合理的な人件費のコントロールが可能になります。

飲食店の人件費を適正化するための具体的な対策

人件費の計算方法を理解したら、次は実際に適正化するための施策を考えましょう。単純に人件費を削るだけでは、サービス品質の低下につながるリスクがあります。そのため、「無駄を減らしながら効率を上げる」ことが重要です。ここでは、効果的な対策を紹介します。

1. シフト管理の最適化

人件費が高くなる原因の一つは、非効率なシフト管理です。適切なシフトを組むことで、無駄な人件費を削減できます。

ピークタイムとアイドルタイムを把握する

まず、1日の売上データを分析し、ピークタイム(忙しい時間帯)アイドルタイム(閑散時間帯) を明確にします。例えば、ランチタイムとディナータイムはスタッフを増やし、それ以外の時間帯は最小限の人員で回すなど、戦略的にシフトを組みましょう。

必要最低限の人員配置を考える

売上に対する適正なスタッフ数を把握するために、「売上高 ÷ 労働時間」 の数値を参考にしましょう。売上が落ちる時間帯に過剰なスタッフを配置していないか、確認することが大切です。

シフトの柔軟性を持たせる

固定シフトに頼らず、パート・アルバイトのシフトを柔軟に調整することで、必要な時間帯にだけ人員を確保できます。最近では、AIを活用したシフト管理ツール(ex. 「Airシフト」「ShiftBoard」 など)を導入し、データに基づいた最適なシフトを組む飲食店も増えています。

2. 業務の効率化とオペレーションの見直し

スタッフ一人ひとりの生産性を向上させることで、少ない人員でも高い売上を確保できます。

業務の「ムダ取り」を徹底する

無駄な動きや作業を減らすことで、スタッフの負担を軽減しながら効率を上げられます。例えば、以下のような点を見直してみましょう。

注文の取り方: 口頭注文ではなく、タブレットやQRコードで注文できるようにする。

動線の改善: キッチンとホールの動線を見直し、スタッフの移動距離を減らす。

清掃や準備作業: 営業前後の清掃作業を簡略化し、時間を短縮する。

デジタルツールを活用する

近年、多くの飲食店が 「セルフオーダーシステム」「キャッシュレス決済」 を導入し、業務を効率化しています。例えば、「トレタ」「スマレジ」「POS+」 などのサービスを使えば、注文・会計業務を自動化でき、人手を削減できます。

3. 人材教育とスタッフのスキル向上

スタッフのスキルが向上すれば、同じ人員でも生産性を大幅に上げることが可能です。

即戦力を育てるトレーニング

新人スタッフを戦力化するまでの期間が長くなれば、その分、人件費もかさみます。研修マニュアルを整備し、短期間で即戦力になれるようなトレーニングを実施しましょう。具体的には:

動画マニュアル を活用し、いつでも学習できる環境を整える。

ロールプレイング を取り入れ、接客スキルを短期間で習得できるようにする。

チェックリスト を作成し、習熟度を可視化する。

多能工化(マルチタスク化)を進める

スタッフが一つの業務しかできないと、シフトの柔軟性が下がり、結果として人件費が増えてしまいます。そのため、「ホールスタッフも簡単な調理をできる」「キッチンスタッフも接客ができる」 といった多能工化を進めると、少ない人員でも店舗を回せるようになります。

4. 正社員とアルバイトのバランスを最適化

人件費を適正化するためには、正社員とアルバイトのバランス も重要です。

固定費(正社員)と変動費(アルバイト)のバランスを取る

正社員の人件費は固定費として発生しますが、アルバイトの人件費は変動費として調整可能です。そのため、繁忙期・閑散期に応じて、アルバイトのシフトを増減させることで、柔軟な人件費管理ができます。

社会保険加入基準を考慮する

社会保険の適用条件を超えると、コストが増加する可能性があります。例えば、週20時間以上働くアルバイトは社会保険の加入義務が発生 するため、シフトを調整することで負担を軽減できる場合があります。

5. 人件費を最適化しつつ、スタッフの満足度を維持する

人件費を削減するだけでは、スタッフのモチベーション低下や離職につながる可能性があります。適正な人件費管理と同時に、働きやすい環境づくりも重要です。

インセンティブ制度を導入する

売上に応じたボーナス制度や、業務効率化のアイデアを出したスタッフに報奨金を支給することで、スタッフのやる気を引き出せます。

シフトの希望を考慮する

スタッフのワークライフバランスを尊重し、希望シフトをできるだけ反映させることで、長期的な定着率を高められます。

まとめ

飲食店の人件費を適正化するには、単に「コストを削る」のではなく、「シフト管理」「業務効率化」「スタッフ教育」「雇用バランスの最適化」「働きやすい環境作り」 をバランスよく進めることが重要です。

人件費率を計算し、現状を把握する

ピークタイムとアイドルタイムに合わせてシフトを最適化する

デジタルツールを活用して業務を効率化する

スタッフ教育を強化し、多能工化を進める

正社員とアルバイトのバランスを調整する

スタッフの満足度を維持し、モチベーションを高める

これらの施策を実践することで、人件費を適正にコントロールしながら、売上アップとサービス向上を両立させることが可能になります。