1. はじめに|食品衛生法は飲食店の必須知識

飲食店を運営するうえで、「食品衛生法」は絶対に知っておくべき法律です。

食中毒を防ぎ、安全な食事を提供するためのルールが決められており、違反すれば営業停止や罰則の対象になることもあります。

「でも、法律って難しそう…」

そう思う方も多いかもしれません。確かに食品衛生法は改正も多く、専門的な言葉が使われがちです。

しかし、基本的なポイントを押さえておけば、特別な知識がなくても問題なく対応できます。

この記事では、飲食店が知っておくべき食品衛生法の基礎を、わかりやすく解説します。

最低限これだけは押さえておきたいルールをシンプルにまとめたので、ぜひ最後まで読んでみてください。

2. 飲食店が守るべき衛生管理の基本ルール

飲食店を運営する上で、食品衛生法に基づいた衛生管理は欠かせません。適切な管理を怠ると、食中毒の発生リスクが高まり、営業停止や罰則を受ける可能性があります。ここでは、飲食店が遵守すべき基本的な衛生管理のルールを解説します。

食品衛生責任者の設置

飲食店を開業する際には、**「食品衛生責任者」**を設置することが義務付けられています。食品衛生責任者は、店舗の衛生管理を統括する役割を担い、食材の取り扱いや設備の清掃、スタッフの衛生指導などを行います。

食品衛生責任者になるには、**各都道府県の食品衛生協会が実施する「食品衛生責任者養成講習会」**を受講し、資格を取得する必要があります。受講時間は6時間程度で、費用は10,000円前後が一般的です。

HACCPに基づく衛生管理

2021年6月から、すべての食品関連事業者に対し、「HACCP(ハサップ)」に基づく衛生管理が義務化されました。HACCPとは、食品の製造・調理過程における危害要因を分析し、衛生リスクを最小限に抑えるための管理手法です。

HACCPでは、以下のようなポイントを管理します。

  • 食材の受け入れ時チェック(温度や賞味期限の確認)
  • 交差汚染防止(生肉・魚と野菜の調理器具を分ける)
  • 加熱・冷却の適正管理(中心温度75℃以上で1分以上加熱)
  • 定期的な衛生チェックの記録(清掃や消毒の実施履歴を記録)

特に、小規模飲食店向けには**「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」**という簡易版の管理方法が導入されています。厚生労働省が提供する様式を活用し、日々の衛生管理を記録することが求められます。

食品表示の適正管理

飲食店では、食材の仕入れ時やメニュー表記において、食品表示法に準拠した適正な管理が必要です。特に、アレルギー表示や原材料表記のミスは、消費者の健康被害につながるため注意が必要です。

例えば、**「えび」「かに」「小麦」「そば」「卵」「乳」「落花生」**の7品目は、アレルギーを引き起こしやすいため、義務表示が必要です。誤った表示を行うと、行政指導や罰則の対象になる可能性があります。

衛生管理を怠った場合のリスク

衛生管理を徹底しなかった場合、どのようなリスクがあるのでしょうか?

  • 営業停止命令(食中毒が発生した場合、数日~1ヶ月の営業停止処分)
  • 罰金・行政処分(違反内容により最大2年の懲役または200万円以下の罰金)
  • ブランドイメージの損失(SNS拡散により顧客離れが加速)

例えば、2018年に発生した某焼肉チェーン店の食中毒事件では、適切な衛生管理が行われていなかったために50人以上が感染し、一時的に全店舗営業停止となる事態に陥りました。こうしたリスクを防ぐためにも、日々の衛生管理を徹底することが重要です。

3. 食中毒を防ぐための衛生管理対策

飲食店での食中毒は、店舗の信用を大きく損なうだけでなく、営業停止や法的責任の発生にもつながります。そのため、食品衛生法に基づいた適切な衛生管理を徹底し、リスクを未然に防ぐことが重要です。

食中毒の主な原因

食中毒の原因となる主な要因は、大きく以下の3つに分類されます。

  • 細菌性食中毒(例:サルモネラ菌、腸管出血性大腸菌O157、カンピロバクター)
  • ウイルス性食中毒(例:ノロウイルス、A型肝炎ウイルス)
  • 自然毒・化学物質による食中毒(例:フグ毒、ヒスタミン中毒)

これらのリスクを防ぐためには、食材の取り扱いや調理環境の衛生管理を徹底する必要があります。

手洗いと消毒の徹底

厚生労働省の調査によると、**飲食店で発生する食中毒の約30%が「従業員の手指を介したウイルスの感染」**によるものとされています。そのため、手洗いと消毒の徹底が何よりも重要です。

正しい手洗いの方法(所要時間:約30秒)

  1. 流水で手を濡らす(汚れを落としやすくする)
  2. 石鹸をつけ、手のひらをこすり洗い
  3. 手の甲や指の間をしっかり洗う
  4. 指先・爪の間を重点的に洗う(ブラシを使用すると効果的)
  5. 手首までしっかり洗う
  6. 流水でしっかりすすぐ
  7. 清潔なペーパータオルで拭き取り、アルコール消毒を行う

また、ノロウイルスはアルコールでは死滅しないため、塩素系消毒剤(次亜塩素酸ナトリウム)を使用することが推奨されています。

食材の適正な管理

食材の管理が不適切だと、細菌の繁殖を促進し、食中毒の原因となります。以下のポイントに注意しながら、適切な保管と調理を行いましょう。

  • 冷蔵保存(0~5℃)、冷凍保存(-18℃以下)を徹底
  • 生鮮食品と調理済み食品は別々に保管
  • 使用期限が近い食材を先に使う「先入れ先出し(FIFO)」を徹底
  • 調理器具(包丁・まな板)は食材ごとに分け、使用後は熱湯消毒

特に、カンピロバクター(鶏肉に多い食中毒菌)は75℃で1分以上加熱しないと死滅しないため、調理温度の管理が不可欠です。

ノロウイルス対策

飲食店で最も多く発生するウイルス性食中毒の原因がノロウイルスです。ノロウイルスは非常に感染力が強く、少量のウイルスでも感染を引き起こします。

感染防止のために、以下の対策を実施しましょう。

  • 生もの(特に牡蠣などの二枚貝)は十分に加熱(85~90℃で90秒以上)する
  • 従業員の健康管理を徹底し、下痢・嘔吐の症状がある場合は出勤禁止
  • 発症者が出た場合、嘔吐物を適切に処理し、塩素消毒を行う

特に、冬季(11月~3月)はノロウイルスが流行しやすいため、日常的な対策が必要です。

4. 違反するとどうなる?食品衛生法違反の事例とペナルティ

食品衛生法に違反すると、飲食店にとって大きなダメージとなります。**営業停止や罰金だけでなく、信頼の失墜や売上減少といった深刻な影響を受ける可能性があります。**ここでは、実際の事例を交えながら、食品衛生法違反のリスクとペナルティについて解説します。

違反による主なペナルティ

食品衛生法に違反した場合、内容によって以下のような行政処分が科されます

違反内容罰則・処分
食中毒を発生させた営業停止、営業許可の取り消し、罰金
許可なしで営業3年以下の懲役または300万円以下の罰金(法人は1億円以下の罰金)
HACCP義務を怠った行政指導、営業停止
食品表示違反(虚偽表示・期限切れ販売)2年以下の懲役または200万円以下の罰金
不衛生な調理環境行政指導、改善命令、営業停止

実際の食品衛生法違反事例

1. 大手チェーンの食中毒事件(2022年)

某大手居酒屋チェーンでは、生肉を適切な温度で保存せず提供した結果、複数の客が食中毒を発症。この事態を重く見た保健所は、1週間の営業停止命令を出しました。これにより、数千万円規模の損失が発生し、信頼回復に時間を要しました。

2. 無許可営業による摘発(2023年)

東京のある飲食店が営業許可を取得せずに調理・販売を行っていたとして、営業許可のない営業行為が発覚し、オーナーが罰金刑を受けました。さらに、SNSで拡散され、風評被害による顧客離れも発生しました。

3. 食品偽装問題(2021年)

某ホテルのレストランが「国産牛」とメニュー表記していたにも関わらず、実際には外国産の肉を使用していたことが発覚。消費者庁から指導を受け、ブランドイメージが大きく損なわれ、売上が激減しました。

法律違反がもたらす影響

法律違反による影響は、営業停止や罰金といった直接的なペナルティだけではありません

  • ブランド価値の低下:「食中毒を起こした店」として認識され、顧客離れが進む
  • 風評被害:SNSや口コミで悪評が広まり、信頼回復に時間がかかる
  • 再発防止のコスト:再教育や設備投資など、追加コストが発生

違反によるダメージは計り知れません。食品衛生法をしっかり守り、未然にトラブルを防ぐことが何より重要です。

5.まとめ|食品衛生法を遵守して信頼される飲食店へ

食品衛生法の遵守は、飲食店経営において最も重要な基盤となります。これまでの内容を踏まえ、ポイントを整理してみましょう。

安全な食事の提供は信頼の基本 食品衛生法を遵守することは、単なる法的義務以上の意味があります。お客様に安全な食事を提供することは、飲食店としての基本的な責任であり、長期的な信頼関係を築く土台となります。

具体的な実践ポイント

  1. 食品衛生責任者の設置と教育
  • 資格を持った責任者を必ず配置する
  • 定期的な研修で知識をアップデート
  • スタッフへの教育を継続的に実施
  1. HACCPに基づく衛生管理の徹底
  • 日々の衛生管理記録をつける
  • 温度管理や清掃の手順を明確化
  • 定期的なチェックリストの確認
  1. 食材管理と調理環境の整備
  • 適切な温度管理の徹底
  • 交差汚染の防止
  • 清掃・消毒の定期実施

予防が最大の対策 食中毒などの事故が発生してからでは遅すぎます。日々の予防的な取り組みこそが、安全な店舗運営の要となります。些細な兆候も見逃さず、常に予防的な視点で管理を行うことが重要です。

最後に 食品衛生法の遵守は、決して難しいものではありません。基本的なルールを理解し、日々着実に実践していくことで、必ず成果は表れます。お客様に安心して食事を楽しんでいただける、信頼される飲食店を目指して、しっかりと取り組んでいきましょう。